「ねえ先生、明日の晩ご飯どうしよっか」
帰り俺を見送ってくれる先生に、俺はこっそり小さな声で聞いた。
弟はリビングでテレビを見ながら爆笑してる。
先生は弟に俺たちの姿も見えてないし、声も聞こえてないことを確認するようにリビングにちらっと振り返った。
「カレーがいい」
こっそりと、先生は笑って俺に囁き返した。
カレーか。先生俺のカレー好きだもんね。
「ん、わかった」
俺の言葉に、先生は嬉しそうに目を細めて笑った。
そっと、先生の頬に指先を押し当てる。
先生の顎をそっと掴んで唇を引き寄せると、先生は焦ったように待って、と小さく呟いた。
その目がちらりと、視線だけでリビングに振り返る。
ダメと訴えかけるその瞳を無視して、先生の唇に吸いついた。
「ん・・・・ッ」
身を捩って逃げようとする腰に腕を回して、俺の肩を押し返す手首を掴んで引き剥がした。
腰にまわした腕に力を込めて引き寄せて、さらに深く唇を合わせた。
「ん、んふ・・・・ん、ん・・・・ッ」
鼻から抜けるような甘い吐息に、俺は目の前がくらくらした。
ぴちゃりと音を立てて、お互いの唇を舐めながらそっと離れた。
「ん、は・・・・もう・・・・馬鹿・・・・」
こつん、と額を合わせると先生は顔を赤くして恨めしそうに俺を睨んだ。
やっぱり、俺の先生ってば世界一可愛いよね。
もう一度キスしようと唇を合わせようとした、そのとき、
「兄貴ー?あいつ帰ったーん?」
ひょっこりとリビングから顔を覗かせた弟に、先生は凄まじい早さで俺の身体を突き飛ばした。
ドアにしこたま後頭部をぶつけた俺を無視して、先生は引きつった笑みを浮かべて真っ赤な顔で弟に振り返った。
「・・・・何しとん」
「いや!あの!コンタクト!ずれて!」
「兄貴視力1.5ちゃうかったっけ」
え?!じゃあ先生何で眼鏡かけてんの?!あれ伊達?!
「じゃ、じゃあ俺帰るね」
「あ、ああ」
また明日な、確かに先生は口パクでそう言って、笑ったんだ。
愛してティーチャー!<天敵編後篇>
ガァンッ!と凄まじい音を立てて包丁を白いまな板に振り落とした。
吹っ飛んだジャガイモを拾ってボウルに入れて、もう一個ジャガイモをまな板に置いた。
リビングにまで響いた凄まじい音に、リビングのテーブルに座っていた加納と阿嶋の肩がびくりと跳ねた。
また吹っ飛んだジャガイモをまた拾ってまたボウルに放り投げると、加納は頬杖をついて呆れたように溜息を吐いた。
「飯奢ってやるって言うから来てみればお前の手料理で、しかも機嫌最悪とかマジありえなくね?」
「しかも僕たちが呼ばれた理由が、月代先生のドタキャンでとかねぇ・・・・」
心底呆れ返ったような顔でカウンターの向こうから俺を見る二人に、自分の眉間に皺が寄ったのがわかった。
ガァンッ!と音と一緒に、ニンジンが吹っ飛んだ。
6時の今から遡ること8時間前の午前10時頃。
「・・・・え」
俺の声に、電話の向こうの先生は本当にすまなさそうにごめん、と言った。
電話の向こうで先生が弟を気にしたのが、何となくわかった。
『透が俺と一緒に二人でどっか行きたいって駄々こねて・・・・しかも今日も泊まるって言いだしてさ』
「それじゃ、お父さんに迎えに来てもらえばいいじゃん」
『言っても聞かねえんだよ・・・・だからマジごめん!明日は絶対帰らせるから!』
「ちょ、先生!」
俺の言葉を待たずに先生はぶちっと通話を切った。
ツーッツーッと俺の耳には無情の機械音。
・・・・明日覚えてろよ。明後日学校とか、知るか。
泣いて鳴いて俺に縋り付いて赦し乞うて意識飛ばすまで犯してやる!!
通話を切って、俺はリビングのテーブルに振り返る。
先生のためにとびっきり美味いカレーを作ろうと思って朝買いに行った、大量の食材たち。
「どーすんの、これ・・・・」
俺の呟きは、一人ぼっちのリビングには響かなかった。
そして放り投げた携帯でこの二人を召喚して、今に至る。
だって、もったいねえじゃん・・・・。
カレーのルーを鍋の中に放り込んでお玉でぐるぐるかき混ぜる。
大体先生がカレー食べたいって言ったから朝から買ってきたのにさ!何だよドタキャンって!
「有岡、眉間眉間」
・・・・加納の言葉に、俺は人差し指で深く皺が刻まれた眉間をぐいぐいと押した。
加納はリビングを見渡して、ほーっと息を吐いた。
「さすが社長ご子息だな。いい家に住んでんじゃん。家賃いくらよ?」
「15万」
・・・・何で二人ともフリーズしてこっち見んだよ。こっち見んな。
ぐつぐつと音を立て始めたカレーを見下ろす。
「・・・・道楽息子め」
「家賃も生活費も学費も勝手に親が出してんだから別にいいだろ」
俺がしれっと言うと、加納と阿嶋は最低、と小さく呟いた。
「これだからやーねー金持ちの子どもって!」
「ホントホント!親を何だと思ってんのかしら!」
「うるせえな放っとけ!!」
近所のおばちゃん言葉でこそこそ言う二人に俺はお玉を投げつけた!
ったく・・・・いつだってこうだなこいつらは!
けらけら楽しそうに笑ってる二人に、俺は眉間に皺が寄ったのを感じた。
「有岡、眉間眉間」
加納は俺の眉間を指差して楽しそうに笑う。
・・・・にゃろう・・・・。
俺は流しに使った調理器具や食器を置いて、ぐいぐいと眉間を指で押した。
「うんめぇぇえええ!!」
加納は俺特製のカレーを食った瞬間、ガキみたいに顔を輝かせて叫んだ。
その隣で阿嶋も美味しい美味しいって言いながらぱくぱく食べてる。
「お前めちゃくちゃ料理上手えじゃん!俺てっきりゲテモノ、あ、いや何でもない」
「もういっぺん言ってみろてめえ・・・・ッ」
ひく、と頬を引きつらせた俺に、加納はさっさと下を向いてカレーを食べだした。
俺はふう、と息を吐いて、カレーを見下ろす。
ちらりと目の前に座る加納と阿嶋を見ると、二人は不思議そうに俺を見返した。
「・・・・あーあ、本当は先生のために作ったんだけどなぁ」
「・・・・悪かったな」
「愛しの月代先生じゃなくて!」
俺の言葉に加納と阿嶋は引きつった笑みを浮かべた。
ふと加納がそういえば、と俺を見た。
「隣って月代ん家だろ?あいつ、たかが私立高の教師のくせに家賃15万もするマンションによく住めてるよな」
「先生は家賃5万だって」
「はぁぁあああッ?!!」
「何で?!」
俺の言葉に、二人はいきなり立ち上がって叫んだ。
突然叫んだ二人にびっくりした俺の肩がびくりと跳ねる。
「・・・・はッ!ま、まさか大家に『残りの家賃は身体で払え』とか言われて無理矢理・・・・!」
とんでもないこと言いだした加納に、俺はティッシュの箱を投げつけた。
何つーこと言うんだこいつは!俺の先生がんなことするわけねえだろ!!
しかも何だ!最後ぼそっと呟いた「大家・・・・羨ましい」って!!
「ここの大家が亡くなった親父さんの親友で、一人暮らしすんのに家探してるって言ったら格安で貸してくれたんだとよ」
「んだよつまんねえな」
「・・・・ていうか・・・・先生のお父さん何者?」
先生はただの教師だったって言ってたけど・・・・。
そう言うとふーん、と言って加納はグラスの水を一口飲んだ。
「・・・・あ、そういえば、お前あいつの学生時代の話聞いたことある?」
「先生の?・・・・そういやねえな・・・・」
「前によ、1組の三吉が聞いたらしいんだけどよ!月代の奴顔引きつらせてさっさと職員室戻ったらしいぜ」
そんなに聞かれたくないのか・・・・?先生確か白鳳だったって言ってたよな。
そういえば、俺先生の学生時代の話、学校が白鳳でバイト三昧だったってことしか知らねえや。
・・・・確かに俺が先生の学生時代の話持ち出したら、なーんかいっつも誤魔化されてるような・・・・。
「何かやばいコトしてたんじゃねーのぉ?ウリとか」
「お前いい加減にしねえとぶっ殺すぞこの脳内年中発情期が」
「はっはっは、犯すぞてめえ。大体てめえに言われたくねえよ!」
「お前よりマシだ!」
「対して変わんねえよ!」
机を挟んでぎゃーぎゃー言い合いしだした俺たちを気にせず、阿嶋はグラスの水を啜る。
ことりとテーブルにグラスを置いて、一言。
「・・・・どっちもどっちだろ」
・・・・・・思わず、ぴたりと同時に止まって阿嶋に振り返る。
・・・・・・・・・・阿嶋の素を、初めて見た。
それはまあとにかく置いといて、先生の学生時代かぁ。気になるなぁ。
ダメ元で今度聞いてみよっか・・・・、・・・・え・・・・?
「有岡?」
加納が勝手に冷蔵庫から取ってきたビールに口をつけようとして、不思議そうに俺を見た。
それ・・・・先生のビール・・・・。
いや、そんなことどうでもいいんだけど・・・・。
「・・・・今、先生の声がしたような・・・・」
「・・・・はぁ?」
「どうしたの?有岡君。月代先生に逢えない所為で頭ついにおかしくなっちゃった?」
・・・・俺、今さらっと酷いこと言われたよな。加納まで阿嶋を見て唖然としてる。
いやそんなことどうだってよくて、いやいいわけじゃないんだけど。
さっき、マジで先生に呼ばれたような気が・・・・。
「・・・・先生・・・・?」
壁の向こうにいるだろう先生を見つめる。
加納と阿嶋は不思議そうな顔で俺を見た。
俺を、呼んでる?先生。ねえ、もしかして、泣いてるの?
有岡、
助けて、
泣き叫ぶ先生の顔が、見えた気がした。
俺は弾かれたように玄関に突っ走った!
後ろから加納の俺の名前を驚いたように呼ぶ声が聞こえた気がしたが、構ってられない。
靴も履かずに外に飛び出して、先生の家の呼び鈴を連打した!
「先生!先生!先生ッ!!」
呼び鈴を何度も押して、ドアを殴って、叫ぶ。
加納と阿嶋が慌てたように部屋から飛び出してきた。
夜遅くで、近所迷惑とか、俺の頭にはなかった。
先生が、泣いてる。
そのとき、カギが開く音がして、向こう側から少しだけドアが開いた。
「何やねんこんな夜に。近所迷惑やろが」
迷惑極まりないって顔した弟が、不機嫌そうな顔でドアの隙間から俺を睨んだ。
咄嗟に開いたドアを掴むと、弟はまるでそれを拒むようにドアを向こう側へ引っ張った。
お互いの力に、お互いの手が震えてる。
「先生、出せよ」
「兄貴はもう寝とる」
「出せっつってんだろ!」
後ろに立ってる加納と阿嶋は、俺を止めようか悩んでる。
弟は、鋭い冷たい瞳で俺を睨んだ。
「ええ加減にせえや!警察呼ぶぞ!」
「呼べるもんなら呼んでみろよ!」
「お、おい、有岡?!」
「呼ばれて困んのはてめえじゃねえのかよ?!」
俺の言葉に、弟は息を詰まらせて目を見開いた。
その手から一瞬力が抜けた瞬間、俺は力の限りドアを引っ張った!
急な力に弟の身体はよろめいて廊下に転がった。
「先生!先生ッ!!」
一気にリビングにまで駆け込んで、部屋をぐるりと見渡す。
固く閉ざされた寝室のドアに、俺は飛びついて蹴破る勢いで中に飛び込んだ!
そして、目を、見開く。
「・・・・せん、せ・・・・」
ベッドでぐったりとしてる、先生。
服はほとんど着てないに近くて、手首は肉に食い込むほど強く布で縛りつけられていた。
身体の至る所に暴力の痕、黒髪の隙間の白い頬も、赤くなっていた。
身体が、震える。頭の中が、真っ白だ。声が出ない。息ができない!
「・・・・ありお、か・・・・」
微かに聞こえた声は小さくて、掠れていて、うわ言のように、震えていた。
その声に、俺は弾かれたように先生に飛びついた!
「先生!先生!先生!!」
身体を抱き起こして、肩を掴んで、必死で叫ぶ!
先生は俯かせていた顔を、ゆっくりと上げる。
涙でぐちゃぐちゃになった頬は、赤く腫れて熱を持ってるみたいだった。
先生は涙を流し続ける虚ろな瞳で俺を見て、ゆっくりと目を見開いた。
「ありお、か・・・・」
「先生・・・・!」
「ありお、か、ありおか・・・・ありおか・・・・ッ!」
先生は堰を切ったように俺の胸に顔を押しつけて泣きだした。
俺は情けなくなって、怒りに頭がおかしくなりそうで、必死で先生の身体を抱きしめた。
「つ、月代・・・・っ」
「先生・・・・!」
加納と阿嶋は寝室のドアの傍で、真っ青な顔で茫然と立ちすくんで呟いた。
その後ろ、リビングで弟は、ぐしゃりと髪を掴むと舌打ちを打った。
それに我に返った加納が、勢いよく弟を睨む。
「てめえ・・・・何考えてんだ・・・・!」
「あ?」
開き直ったように睨み返した月弟に、加納の額に青筋が浮かんだ。
勢いよく弟の胸倉を掴むと、勢いよく引き寄せる。
「何考えてんだてめえ!こんなことして許されると思ってんのかよ?!」
「何やねんお前。部外者はすっこんどれや」
「んだと・・・・?!」
震えるほど強く、加納が拳を握りしめる。
「加納」
俺が呼ぶと、加納は怒りに狂った顔で睨むように俺に振り返った。
俺はベッドのシーツを引っ張り寄せて、先生の肩にかける。
俺が立ち上がると、阿嶋は泣きながら先生に駆け寄った。
「どうしよ・・・・先生・・・・先生・・・・!解けない!解けないよぉ・・・・!」
阿嶋はぼろぼろ泣きながら、先生の手首を縛る布を解こうと震える手で引っ張った。
俺は、頭の中が妙に冷えていた。怒り狂ってる、はずなのに。
人は激怒を通り過ぎると、冷静になるらしい。
「退け」
「有岡・・・・!」
「退け」
俺の顔を見て、加納の顔が引きつった。
加納は目を見開いて俺を見つめたまま、ゆっくりと後退る。
ゆっくりと近付く俺を、弟は鬱陶しそうな目で見た。
「何やねん」
その声が、聞こえた、瞬間、
俺は渾身の力で弟の頬を殴り飛ばした。
突然のことに身構えることもできなかった弟の身体は壁に叩きつけられる。
先生と加納と阿嶋は、呆然とした顔で俺を見た。
弟は切れた唇を拭いながら俺を睨み上げる。
「お前・・・・!」
「・・・・殺してやる」
俺の言葉に、弟は目を見開いた。
俺は弟に飛びかかって胸倉を掴むと、その身体をフローリングに叩きつけた!
「あ、有岡!」
「殺してやる!殺してやる!よくも!よくも俺の先生を・・・・ッ」
加納の驚きの声を無視して、俺は弟の上に馬乗りになってその頬をもう一度殴った!
何度も、何度も、何度も何度も!
拳の痛みを感じないぐらい、俺は怒り狂っていた!
「有岡!やめろ!マジで死ぬぞそいつ!!」
「こんな奴、死ねばいい!!」
必死で俺を止めようとする加納を振り払って、俺は弟の胸倉を掴み上げた!
弟は顔を腫らして、憎々しげな目で俺を睨む。
「好きなら、何しても許されると思ってんのか・・・・!お前の好きって!こんなもんか!!」
憎々しげに俺を睨むその目が、見開かれた。
加納と阿嶋も、驚いたように目を見開いている。
「こんなことすることがお前の好きかよ!・・・・好きな奴傷つけんのがお前の『好き』なのか!!」
弟がもう一度目を見開いた。
俺がもう一度拳を握りしめた、そのとき、
誰かが、振り上げた俺の腕を、掴んだ。
「や、めて・・・・やめて、有岡・・・・おねが・・・・やめて・・・・っ」
「・・・・先、生・・・・」
先生は腕を縛られたまま、必死で俺の服を握ったまま引っ張った。
震える力の入らない手は、俺の服を掴むだけで精一杯だったけど。
「やめて・・・・もう、いい・・・・」
「・・・・先生・・・・」
「もういいから・・・・!」
ぼろぼろ泣きながら、先生は必死で俺に縋り付いた。
先生の泣き顔に、俺の頭が一瞬で冷えていく。
ねえ先生、先生にこんな酷いコトしたこいつを、先生はまだ弟だと思ってるの?
「・・・・加納、そこの鉛筆立てにハサミ入ってるから、取ってくれ」
「え、あ、ああ」
加納は慌ててテレビラックの端に置いてある鉛筆立てからハサミを取って俺に渡す。
俺は先生の手を掴んで、先生の手首を傷つけないように布を外側からゆっくり切った。
何重にもして巻きつけられてた布が薄くなったことで空いた手首の隙間に、ハサミを差し込んで布を切る。
ジョキンと音を立てて布が切れて、ぱさりと軽い音を立てて布が落ちる。
先生がほっと息をついたとほぼ同時に、俺は先生の身体を勢いよく抱き上げた!
慌てて俺の首に縋り付いた先生を無視して、ぐったりと座り込む弟を見下ろす。
「このマンション、オートロックだから勝手に帰れよ。俺は先生の部屋の合いカギ持ってるからいつでも入れる」
顔すら上げない、上げられない弟を、睨み下ろした。
「二度とその面俺に見せんな。今度は、先生が止めたって殺すぞ」
それだけ吐き捨てて、俺は先生を抱いたまま部屋を出た。
阿嶋が気を働かせて傘を挟んどいてくれた俺の部屋のドアを開ける。
加納と阿嶋も先生の部屋から出てくると、玄関のコート掛けから自分たちの上着を取った。
「俺たち帰るよ」
「ああ。悪かったな」
「ううん。有岡君、月代先生、うんと甘やかしてあげてね」
そう言って二人は最後に小さく笑って帰った。
俺は先生を抱いたままリビングに戻る。
先生を下ろすと、先生はフローリングに座り込んだ。
「先生」
肩が、震えてる。やっと緊張が解けて、一気に怖くなったんだろうか。
熱い両頬を包みこんで上を向かせて唇を寄せると、先生ははっと目を見開いた。
「駄目ッ!!」
勢いよく肩を押し返した先生に、俺を目を見開いた。
「先生?」
「駄目・・・・だめ、だめ・・・・だめ・・・・っ」
俺の肩を押し返す震える手と、微かな嗚咽に、俺はまた目を見開いた。
肩を押し返す腕を掴んで、無理矢理先生を立たせてキッチンまで引きずった。
嫌がる先生の身体を前かがみに流し台に押し付けると、先生はさらに嫌がるように頭を激しく振る!
その髪を掴んで押さえつけると、俺は先生の口の中に指を突っ込んだ!
「う、ぐ、えッ!!」
嫌がって激しく抵抗する先生の髪をさらに強く掴んで捩じ伏せて、先生の喉にまで指を突っ込む。
先生の喉奥を強く突くと、先生は胃の中のモノを吐き出した。
先生が吐き出したどろりとした青臭い白いそれに、俺は目を見開く。
先生は激しく咳き込むと、小さく喉の奥で呻いてその場に泣き崩れた。
怒りで震える手を抑え込もうと、俺は必死で拳を握った。
「う、うぅ・・・・ごめ、ごめん、有岡・・・・」
「先、生・・・・」
「ごめん、ごめん・・・・ごめんなさいぃ・・・・ッ」
頭を抱え込んで、先生はしゃくり上げた。
何で、何で先生が謝んだよ。悪いのは、あいつじゃねえか。
謝んなよ。なあ、先生、こっち見て、俺を見て、
俺は先生の肩を掴んで無理矢理俺に振り返らせると、先生を膝立ちにさせて強く強く抱きしめた!
先生の震える腕が、戸惑うように俺の背中の傍で震えて、縋るように抱きついた。
「先生、ごめん、ごめん・・・・!」
「あ、ありお、か・・・・っ」
何やってんだ俺は!情けない!自分で自分を殺したい!!
あいつが先生を好きで、あいつと先生を二人きりにさせちゃいけないってことを知ってのは俺だけじゃねえか!!
何やってんだ!情けない!好きな奴一人!守れない!!
「ごめん、先生・・・・ごめん・・・・ッ」
「あ、ありお、か・・・・抱いて、抱いて・・・・壊して」
先生の手が、必死で俺の服を握りしめる。
「お前で俺を壊して」
先生の頬を掴んで無理矢理上を向かせて、必死で先生の唇を貪った!
背中を這いまわった先生の手が、さっきより強く俺の服を握りしめる!
先生の身体を抱き上げて寝室に行こうとした俺を、先生が泣きそうな声で止めた。
「い、いや・・・・いや・・・・寝室はいやァッ!!」
怯えた顔に、目を見開く。
先生の身体を乱暴にソファに押し倒して、乱暴にキスをした。
先生は必死で俺を求めながら、俺の頬に手を這わせて、俺の髪をかき乱した。
あいつが触れただろう先生の身体に手を這わせて、唇を離してあいつが先生の身体に刻んだ傷に唇を落とす。
「は、あ、あ・・・・ありお、か・・・・ぁ」
先生の声に顔を上げて、もう一度先生に深く荒いキスをした。
何度も角度を変えて、何度も唇を離して、何度も深くキスを交わした。
先生の身体をまさぐって先生の足を持ち上げると、先生のそこに自分のモノを押しつける。
「ま、待って有岡!」
急に先生が唇を離して、泣きそうに顔を歪めて叫んだ。
俺は一瞬で理解すると、自分の眉間に皺を刻んだ。
先生のそこに、無理矢理指を二本捻じ込む!
痛みに背を反らせた先生の身体を強く抱きしめて、ナカのモノをすべてかき出した。
「先生・・・・!」
「ん、んんぅッ!!」
先生の髪を掴んで荒々しく唇を合わせて、自分のモノを一気に奥まで捻じ込んだ!
びくんッと大きく細い足が跳ねて、足の指にぎゅっと力が入った。
「は、あ、あ、あ、りお、か、ありおかぁ・・・・!」
「先生、先生・・・・好きだよ、先生。好きだ。世界で一番大好きだ」
さっきの恐怖を思い出したんだろう、震える先生の身体を抱きしめて何度も何度も囁いた。
必死で俺の背中に縋り付いた先生の震える腕が、俺の服を握りしめる。
顔中にキスを降らせると、先生の顔から怯えが段々消えていった。
髪を掴んで先生を肩に押し付けると、先生は嗚咽を漏らした。
「ありおか・・・・キス、キスして、ありおか・・・・っ」
「先生・・・・っ」
必死で俺に両腕を伸ばす先生に、俺はどうしようもなくなって、細い身体を力いっぱい抱きしめて深くキスをした。
先生の細い腕が俺の首に抱きついて、必死に俺の身体を抱きしめる。
何度も角度を変えて、さらに深く求めるために先生の身体をソファに押し付けて、お互いの唇を舐めながら顔を離した。
先生の両足を持ち上げて腰を揺すると、先生はぎゅうっと俺に抱きついた。
「あ、はァ、あ、んッ!あ、りお、か・・・・あ、あッ!」
先生の両足を持ち上げて身体を揺すると、先生は俺の首にまわした腕に力を込めた。
細い腰を掴んで、自分の腰を捻じって先生のイイところを探る。
イイところを掠めたのか先生は白い喉を反らせると、涙で濡れた瞳で俺を見た。
「い、いいから、ありおか・・・・おまえの、おまえの好きにして・・・・っ」
「ダメだよ、先生。俺が挿れただけでも痛かっただろ?」
俺の言葉に、先生は答えなかった。
慣らして挿れてないから、きっと相当痛かったはず。
「先生、俺、先生に痛いコトさせたくないよ。先生には、気持ヨくなってほしい」
「ありお、か・・・・っ」
「SEXって、そういうもんでしょ?先生。SEXって、お互い愛し合うためのもんでしょ?」
俺はそう思ってるし、先生にも、そう思っていてほしい。
だって俺は十二分以上に気持ちイイし、精一杯先生を愛してるつもりだよ。
何回ヤったって先生は痛いだろうし、俺もたまに先生に酷いコトするけど、そこには愛があるって自信がある。
ああ、もう、自分でも何言ってんのかさっぱりわかんなくなってきたけど!
「どっちかだけが気持ちイイなんてSEXじゃない。痛いだけの愛も、そんなの愛じゃない」
「ありおか・・・・」
「先生、好きだよ。痛い思いさせないからなんて言えないけど、なるべくさせないから」
先生にはもっと、気持ちヨくなってほしい。
だって俺は、世界で一番先生が好きだから、俺の愛を感じてほしい。
意味わかんない俺の言葉に、先生は、顔を歪めてぼろぼろ涙を流してくれた。
「ありお、か・・・・すき、すき・・・・」
「先生・・・・」
「すき・・・・すき、ありおか・・・・一番、世界で一番好き・・・・っ」
ぎゅうっと俺に抱きついた先生を、俺は強く強く抱き返した。
先生の言葉に、俺も泣きたくなった。
また深く深く唇を合わせて、激しく腰を打ち付けると先生は背を反らせた。
「あ!ありお、か、ありおか!すき、すき・・・・っ」
「先生、好きだ。世界で一番、大好きだ・・・・ッ」
必死でお互いの手を握り合って、お互い同時に弾けたお互いの熱を感じた・・・・。
「ん、く!は、あ、あ、ん・・・・あッ、あッ!」
「先生・・・・」
もう、何回目だろう。自分がイった回数すらわからない。
ソファの低い肘置きに腰を預けて座っている俺の上に跨って、先生は必死で自分の腰を揺すっている。
涙がぽろぽろ滴り落ちる頬に舌を這わせると、俺の首にまわっていた腕に力がこもった。
「先生、好きだよ、先生。好き。大好き」
「ん、ありお、か、おれも、すき・・・・っ」
顔を上に向けると、先生の唇が俺の唇に重なった。
何度も角度を変えて、深く唇を重ねて、そっと唇を離す。
俺を見つめる先生の瞳から、涙がぽたりと俺の頬に落ちた。
先生が腰を揺する動きに合わせて、俺は先生を下から突き上げる。
「あ!ありお、か!イク、イク・・・・ッ」
「先生・・・・!」
ぎゅうっと身体を抱きしめて、深く唇を合わせた。
びくびくと激しく震える先生のナカに、残り少ない自分の熱を注ぎこむ。
唇を離すと、先生は快感にとろけた瞳で俺を見つめた。
「先生・・・・」
「ありおか・・・・すき、すき・・・・」
ぐったりと俺の上に座り込んで、先生は俺の胸に頬を寄せる。
俺はぎゅっと先生を抱きしめると、先生の身体をもう一度ソファに押し倒した。
先生をうつ伏せに押し倒して、引き抜いた自分のモノを扱いて先生のナカに捻じ込んだ。
「あ!あッ!あ、あんっ、あ、ありお、か、は、あ、あァアッ!」
「先生・・・・先生・・・・ッ」
先生の腰を高く上げて、一心不乱に激しく腰を打ち付けた!
先生はソファに顔を押し付けると、ソファに必死で指を立てた。
ナカに出した俺のモノが、律動の激しさにソファに伝い落ちる。
「ありおか、ありおか!ありおかっ!」
「・・・・ッ、先生・・・・!」
「ひ、あ、あッ・・・・!ああァッ!!」
先生は強く目を閉じて、声を上げて、残ってないに等しい熱を吐き出した。
俺も身体を震わせると、先生のナカに残りを熱を流し込む。
先生は快感の余韻に小さく喘ぎながら、意識を飛ばした。
俺は深く深く息を吐くと、先生のナカから自分のモノを引き抜く。
まだ涙を零す先生の苦しそうな寝顔を覗き込んで、自分の眉間に皺が寄ったのがわかった。
ごめんね、先生。謝らなきゃならないのは、俺の方だよ。
汗と涙で顔に張り付く先生の髪を撫でて、俺は胸の痛みに目を閉じた。
「・・・・ん・・・・」
小さく声を漏らして、先生は目を開けた。
ずれた寝室から持ってきたシーツを先生の肩にかけて、先生の髪をそっと撫でる。
「起きた?先生・・・・」
「ありおか・・・・」
昨日の所為で、先生の声は掠れていた。
グラスに用意していた水を口に含んで先生の唇に寄せると、先生は少し身体を起こして俺の唇からそれを飲んだ。
まだだるそうな先生をもう一度ソファに寝させて、もう一度先生の髪を撫でる。
「先生、もう少ししたら服取りに部屋戻ろっか」
「・・・・ん・・・・。・・・・ありおか」
「ん?」
「・・・・ごめん」
俺はそっと目を細めて、そっと先生の唇に触れるだけのキスをした。
先生の身体を支えながら、先生の部屋のドアを開けた瞬間、
「・・・・透?」
玄関で、弟が壁にもたれてぐったりと座り込んでいた。
先生は驚いたように目を見開いて、ふらつく足で慌てて弟に駆け寄る。
「透、お前、こんなとこで何してんだ!」
「・・・・兄貴・・・・」
「ちゃんとベッドで寝なきゃ風邪ひくだろ?!怪我も手当てしてないし、ほら、リビングで」
「・・・・何でやねん・・・・」
弟をリビングに連れて行こうとした先生は、不思議そうに弟を見た。
弟は先生を見上げていた顔を伏せて、肩を震わせている。
「透?」
「何で、何でそんな平気そうな顔して俺に声かけんねん!何で、何であんなコトした俺の心配すんねん!!」
いきり立って怒鳴ると、弟はいきなり勢いよく立ち上がった。
驚いてびくりと肩を震わせた先生を、弟は泣きそうな顔で睨み下ろす。
先生は呆然と弟を見上げて、顔を伏せて、
「・・・・あんなコト?お前、俺に何かしたか?」
弟を見上げて、優しく微笑んで、優しくそっと問いかけた。
その言葉に、弟は絶望に愕然と目を見開く。
「昨日は一人にして悪かったな。腹減ってないか?すぐに昼飯用意してやるから」
先生の優しい言葉に、弟の目にみるみる涙が溢れた。
・・・・本当に酷い人だね、先生。
先生は昨日のコトを、なかったことにするつもりなんだ。
それが、弟には辛い以外の何物でもないと、自分が一番よくわかっておきながら。
弟は突然先生の腕を掴むと、強く強く先生の身体を抱きしめた!
「と、透・・・・っ、痛い・・・・ッ」
「好きや、好きや、好きや!兄ちゃん、世界で一番愛しとる!」
ぼろぼろ泣きながら、弟は必死で叫んだ。
たとえあんな酷いコトをしても、こいつは、本気で先生が好きなんだ。
「昨日のコトをなかったことにする言うんなら、俺はもう我慢せん」
「と、透・・・・?」
「好きや、好きや兄ちゃん。俺は、絶対に諦めへん」
そう言うと、弟は俺を睨んだ。
「今度は正々堂々、実力で奪ったる」
「・・・・やってみろよ」
お前の本気の宣戦布告、受け取ってやるよ弟。
俺を見据える弟を、見据え返す。
弟は自分の荷物を持つと、先生に振り返った。
「今日は帰る。昨日のコトをなかったことにするんやったら、兄ちゃん、覚悟してや」
弟は先生を見て、にやりと笑った。その顔は、まだ泣きそうだったけど。
唖然とする先生を見て、弟は先生の腰を抱き寄せて先生にキスをした!!
ぅるぁぁああああこのクソガキャぁぁああああッ!!!
真っ赤になった先生の目を見つめて、弟は声を出さずに、好きや、と、ごめんと、確かに言った。
ばたんとドアが閉じたと同時に、無言が俺と先生の間に流れる。
「あ、の、有岡・・・・」
「・・・・いっそ憎んで、嫌って、殴ってほしかっただろうね」
俺の言葉に、先生は振り返る。
その細い腰を引き寄せて、深く深くキスをした。
「ん、ふ・・・・ッ」
「あいつは今、どれほど罪悪感に押し潰されそうだろうね」
俺の言葉に、先生が泣きそうに顔を歪めた。
その額にキスをして、また深くキスをする。
「あ、あの、有岡、今日は、もう・・・・」
「今日はもうしないよ。でも、キスぐらいいいだろ?」
玄関に座り込んで、先生を膝立ちにさせて足に跨らせる。
真上にある先生の唇にちゅ、とキスをすると、先生は困ったように眉を下げた。
何度も押しつけるだけのキスをすると、先生の細い腕が、そっと俺の首に絡みつく。
「好きだよ、先生」
「有岡・・・・」
そっと囁いて、先生の唇に自分の唇をそっと重ねた。
ねえ先生、信じて。
たとえ俺が先生を泣かせても、そこには必ず愛があるから。
世界で一番、大好きだよ、先生。
(絶対お前なんかに先生を譲らない。覚悟すんのはお前の方だよ、立川透)
<天敵編後篇・Fin>
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無理矢理突っ込んだら相当長くなってしまった・・・・ ←
後篇長すぎだろ!!そしてエロ少ない。
あんなに騒いでも誰も来ないっていうところがBLだよね!!(笑)
有岡に真のライバル出現!ってことで^^
阿嶋はお腹の中真っ黒ですww(*´∀`*)
有岡と月代は「愛してる」より「大好き!」と「好きだ」が一番しっくりくると思うのですよ。
「愛してる」なんかじゃ足りないぐらい愛してるから、自分たちの身の丈に合った「大好き」と「好き」の言葉。
ちょっと意味不明ですね。でも龍瀬にとって二人はそんな関係。
よい子の皆さんはお酒と喫煙は二十歳になってからですよ! ←
こんなことがあった有岡と月代。しばらくソファエッチです(最低だよこいつ)
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