愛してティーチャー!<未来編>



「ん・・・・んん・・・・」


自分の声がぼんやりとどこか遠くの方で聞こえた。

顔に差す暖かい陽の光に俺は顔を顰めた。

・・・・顔を差す暖かい陽の光?

あれ、俺・・・・昨日カーテン閉めずに寝た・・・・?

・・・・つーか今何時?!

勢いよく跳ね起きた瞬間、俺は唖然とした。

恐ろしいほど広い西洋風の部屋、白い枠にはめ込まれた壁いっぱいの窓。

窓の外には広すぎる庭、部屋の中には高そうなアンティークの家具が綺麗に配置されている。

大人が4人が寝れるんじゃないかと思うほど大きなキングベッドの上で俺は身体を起こしていた。

ここ俺の部屋どころか・・・・日本ですらねえよな・・・・?


「うーん・・・・」


横から聞こえた声に俺ははっとした!

先生・・・・!

勢いよく振り返った瞬間、俺は硬直した!

白いシーツに流れる長い黒髪、紅い痕が散る白く細い身体、恐ろしいほど整った綺麗な貌。

・・・・誰だ。

謎の美女(?)はもう一度うーんと唸ると、俺の方を向いてそのしなやかな腕を伸ばした。


「んー・・・・何だよこぉー・・・・今日会社休みだろぉ・・・・」


甘えるような声で俺の首に腕をまわして擦り寄る。

俺の鼻を突いた甘い匂いに、俺は硬直した!

ん?と訝しげな声を上げて、美女(?)は俺を見上げた。

これでもかってぐらい至近距離で見つめあって、お互い無言。


「・・・・紅?お前・・・・縮んだ?」


ことりと首を傾げると、艶やかな黒髪がさらりと首筋から流れ落ちた。

まさか、まさか、まさかまさかひょっとしてひょっとすると・・・・っ


「せ・・・・先生・・・・?」





愛してティーチャー!<未来編>





「あれっ、紅、お前、若くなってね?!」


先生(らしき美女(?))は突然跳ね起きると俺の顔を覗き込んだ。

つーか近い近い近い近いっ!!

鼻と鼻がくっつきそうになるほどの至近距離でガン見される。


「お前、今何歳?」
「じゅ・・・・16デス・・・・」
「マジで?!お前と付き合いだした頃じゃね?」


付き合いだした頃ってことは・・・・やっぱ先生だよ、な?面影あるし・・・・。

・・・・え、何で先生こんな髪伸びてんの?つーかさらに色っぽくなってっし・・・・。

・・・・ん?若くなった?


「・・・・先生・・・・今何歳?・・・・デスカ」
「あん?俺?36だよ」


さ、さんじゅうろくぅッ?!

つーことは何?!十年後の先生?!

え?!いや!違う!俺が十年前の俺?!

何俺!未来に来ちゃったってこと?!そんな非現実的な!

マンガや小説じゃあるまいしッ!!


「紅?どうした?」


ああ、やっぱり、先生だ。

声も、香りも、目も、全部・・・・。

知ってたけど、やっぱ先生って俺にはもったいないほど素敵、だよなぁ・・・・。


「えー?十年前のお前ってこんなだったっけー?すっげー懐かしー可愛いー」


十年後の先生はにこにこしながら嬉しそうに俺の頬を撫でる。

その笑顔に、さらりと流れる長い黒髪に、どきっとする。

せ、先生今でも綺麗だし可愛いけど・・・・この色っぽさは・・・・。


「・・・・熟女?


小さくぼそっと呟いた瞬間、先生の懇親の右ストレートが俺の左頬に入った。

や、やっぱり先生だ・・・・っ

十年経っても手ぇ出すの早いんだなぁ・・・・本当の意味で。


「そうだ!お前に服出してやんねえとな!」


そう言って十年後の先生はいそいそとベッドから這い出て、下に落ちてたローブを適当に羽織った。

・・・・そういえば昨日、えーっと、十年後じゃない先生とエッチしてそのまま寝たから、

あ!俺今裸じゃん!誰だ今遅いっつったの!


「確かこの辺に前にサイズ間違えて作らせた服があるから、あ、腹減っただろ?ちょっと待って。すぐ呼ぶから。あとズボンは」


先生はうきうきした声でアンティークのクローゼットの中をひっかきまわしてる。

クローゼットの中には高そうなサイズの違うスーツが10着ほどと、私服だろうおしゃれな服が吊られている。


「これ!今のお前じゃ流石にでかいだろうけど多分ぶかぶかではないと思うから。ズボンは我慢してくれな」


ぼすっと音を立てて黒と白のネックカットと袋に入ったままのボクサーパンツ、デニムパンツが飛んできた。

十年後の先生はクローゼットを閉じるとぱたぱたとドアの方に駆け寄っていく。

俺はそれを眺めながら、とりあえずそれらを着ることにした。

・・・・うぅ、下着とズボンがでかいって、変な感じ。

重ね着タイプの二枚のネックカットは、まあでかかったけどそんな気にするほどでかくはなかった。

ただ袖がちょっと長いから、掌の中ごろまで隠れてるけど・・・・。

・・・・俺、まだ身長伸びんだな・・・・。

デニムの裾を折りながら十年後の先生に目を向ける。

ドアの傍の天井から垂れ下がってる金色の紐をくいっと引っ張った。

俺がベッドから降りたのに気づいて、十年後の先生は振り返った。

俺の格好を見て十年後の先生はぱあっと顔を輝かせると、俺に駆け寄ってきた。


「よく似合ってんじゃねえか!あーでもやっぱりサイズはちょっと大きかったな。でも外出するわけじゃねえからいいだろ?」


ぽん、と俺の胸に手を当ててにこにこしながら俺を見上げる。

その笑顔に、やっぱりどきっとする。

ああ、俺、やっぱり先生、好きだなぁ・・・・。


「なーんか立ってるお前と顔が近いって変な感じ。お前まだ身長伸びるんだぜ?」


にこにこしながら十年後の先生が俺の顔を覗きこむ、そのとき、

こんこん、と軽いノックの音。

そのまま間髪入れずにドアががちゃりと音を立てて開いた。


「失礼します、旦那様。お呼びで


そこで言葉が途切れた。

ドアの向こうから現れた男は、俺と先生を見て固まった。

・・・・あれ、あいつ、どっかで見たことあるよーな・・・・。


「お前なー、俺たちが返事してからドア開けろっていっつも言ってんだろ?竜吉」


たつよし?たつよし・・・・たつよしって・・・・加納?!

え?!あいつ加納なのか?!嘘だろ?!

何であいつがあんな執事みたいな格好してんだよ?!


「え、えーっと・・・・こ、紅、だよな・・・・?」
「そーだぞ!十年前から来たんだ!かわいーだろ?」


十年後の加納(多分)は、呆然としながら震える指で俺を指差した。

その言葉に十年後の先生は上機嫌に俺の腕にぎゅーっと抱きつく。

十年後の加納(多分)は唖然とした顔で俺をガン見してる。

まあ、確かにそうなるよな・・・・。


「紅、十年後の竜吉、じゃねえな。加納だぞ!この家で執事長やってんだ」


ああ、やっぱマジで加納なんだ。

流石高校のときから男前なだけあって、十年後の加納は執事の格好がよく似合ってる。

歳とってるから、大人の男前もプラスされてんだろうな。

髪は高校んときの金髪から薄い茶髪に変わっていた。


「じゅ、十年前から来たって・・・・そんな非現実的な・・・・」


にこにこ嬉しそうな十年後の先生とは対照的に、十年後の加納はぼそりと呟いた。

・・・・ねえ十年後の先生、これが普通の反応だよ。


「竜吉、朝飯持ってきてくれ」
もう昼だぞ
「じゃあ昼飯持ってこい」


十年後の加納ははあ、と溜息を吐いて失礼します、と一礼してドアを閉めた。


「ね、ねえ先生、ここって誰の家なの?」
「誰って?お前の家に決まってんじゃねえか!」


あーなるほど、俺の家ね。俺の・・・・。

俺の家ぇッ?!

こんな?!こんな大豪邸が俺の家?!執事長までいる家が俺の家?!

十年後って俺26だろ?!どんだけ大物になってんだよ俺!

十年後の先生は茫然としてる俺を見上げてにこにこしてる。

・・・・か、可愛い・・・・。

綺麗なんだよ?綺麗で色っぽいんだけど、やっぱり俺にとって先生は何歳でも可愛いんだ。


「お、俺の家って・・・・」
「まあいいじゃねえか!んな細かいこと」


十年後の先生は楽しそうに俺の腕を引っ張って大きなベッドに座らせた。

俺の隣に寄り添うようにぴったりとひっついて、十年後の先生は俺を見上げてにっこりした。

あれ?待てよ?ここが俺の家で、十年後の先生と一緒に寝てるってことは、


「俺と十年後の先生、同棲してんの?」
「同棲・・・・同棲?んー、まあそうだけど」


俺の質問に、十年後の先生は少し困ったようだ。

んー、と唸りながら長い髪を相変わらず細い指でかく。


「同棲っつーか、夫婦?


はーん、なるほど。夫婦ね。夫婦、

夫婦ぅううッ?!!


「は?!な、えッ?!お、俺と先生、結婚すんの?!!」
「何だよ。嫌なのかよ」


い、嫌じゃないけど!嬉しいけど!

俺と先生が結婚?!マジで?!!

じゅ、十年後の日本って同性同士で結婚できるようになんのか・・・・?

あ、ここ日本じゃなかったっけ。多分。


「嬉しい?」
「・・・・嬉しい・・・・」


これはマジで。素直に嬉しい。

十年後の先生は俺の顔を覗き込んで、嬉しそうににっこりと笑う。

そのとき、頬に柔らかい感触と、ちゅっと軽いリップ音。


「なっ、ななななッ?!!」
「何照れてんだよ。十年前の俺とはもっと深いの毎日してんだろうが」


キスされた頬を押さえて思わず飛びずさると、先生は片目を閉じてにやっと笑った!

たたた確かにそうだけど!

な、何か十年後の先生の傍にいると、落ち着かないっていうか、緊張するっていうか・・・・。

コンコン、とノックの後に、やっぱり先生が返事する前に十年後の加納が部屋に入ってきた。


「昼食お持ち致しました。奥様」
「竜吉・・・・お前なぁ・・・・」


しれっと言いながら白いテーブルに皿を並べる十年後の加納に、十年後の先生は腕を組んで引きつった笑みを浮かべた。


「いい加減にしろよ!ドアを開けるのは俺か紅が返事してから!あと『奥様』って呼ぶやめろ!馬鹿にしてんのか!」
「十も歳が下のガキに押し倒されてアンアン喘いでる奴が旦那様かよ。大体あんたが『旦那様』とか似合わねえって」


十年後の先生がぐっと言葉を詰まらせると、十年後の加納はにやっと笑った。

・・・・ごめん十年後の先生、味方できないや。多分十年後の俺も味方してないんだろうなぁ。


「てめぇ・・・・クビにすんぞ・・・・ッ」
「へえ!どうやって?」


皿を全部並べ終えた十年後の加納は、顔を上げて楽しそうに十年後の先生を見た。

十年後の先生は下唇に指を押し当てて黙り込む。


「・・・・紅が、留守の間に」


やがて十年後の先生がぼそりと言う。


お前に強姦されたとか
「すみません私が悪うございましたマジでやめてくださいお願いします俺二人がかりで殺されるから!!」


結構真顔で言う十年後の先生に、十年後の加納は必死の形相で縋り付いた。

確かに俺の先生にそんなことしやがったら、殺すだけで済むかな?


「大体、何でお前返事する前にドア開けるんだよ」
「いや、もしかしたらSEXしてるときに遭遇するかなーって思って」
「お前、まだ諦めてなかったのか・・・・っ」


堂々と言う十年後の加納に、十年後の先生は引きつった笑みを浮かべて後退りした。

加納は「月代が乱れてる様が見たい」と言ってしつこく俺に4Pを要求してくる。

・・・・つーか、十年経っても諦めてねえのかお前。


「あー、もういい。出てけお前」
「はいはい。失礼致しますっと」


十年後の加納はまたドアの前で一礼して部屋を出て行った。

十年経ってもマイペースだな、あいつ・・・・。


「ま、あんな奴放っといて。ほら、腹減っただろ?この家のシェフの料理は美味いんだぞ!」


十年後の先生は嬉しそうに俺の腕を引っ張って椅子に俺を座らせる。

俺のすぐそばまで椅子を引っ張ってきて、十年後の先生は機嫌よさそうに座った。

目の前の豪華な昼食に俺は思わず目を丸くする。

綺麗な黄色のオムレツに、いい匂いのするクリームスープと、手作りだろうスライスされたフランスパン。

確かに美味そうだ、そう思った瞬間俺の腹が盛大に鳴った。


「あ・・・・」


段々自分の顔が熱くなっていく!さすがに恥ずかしい・・・・!

十年後の先生はぽかんとした顔をして、すぐくすくすと笑いだした。


「あはは、やっぱ腹減ってたんだな。好きなだけ食っていいからな」


そう言って十年後の先生はぽんぽん、と俺の頭を軽く叩いた。

ふと、先生、あー、うん?十年前の先生?のことを思い出した。ややこしいなぁ。

26歳の先生も俺の髪を撫でるのが好きなんだ。

いちゃいちゃしてるときだったり、キスしてるときだったり、SEXしてるときだったり。

膝枕してもらってるときなんて、微笑みながら優しく俺の髪を撫でてくれるから嬉しい。

・・・・誰だ今ガキっつったの。

髪撫でられんのって好きじゃなかったんだけど、先生に撫でられるのは好きだ。

俺は急に26歳の先生のことを思い出して、何だかしんみりした。


「・・・・先生、急にいなくなってびっくりしてないかな・・・・」
「あー、大丈夫だ。うん」


俺の言葉に、十年後の先生はあっさり答えて頷いた。な、何で?

十年後の先生も大好きだけど、やっぱり俺にとって一番は26歳の先生なんだ・・・・。

こんな考え方は何だか十年後の先生にひどく申しわけない気がして、俺は誤魔化すようにグラスの水を飲んだ。

十年後の先生は俺の隣に座って、持ち手の長いシルバーのフォークにオムレツを掬う。


「ほら、紅。あーん」


凄まじい音を立てて俺は一気に水を噴き出したッ!!

十年後の先生は突然のことにびっくりしてたけど、俺だって負けず劣らずびっくりだ!

あーん?!先生があーん?!

何?!十年後の俺先生に毎日こんなことしてもらってんの?!

先生が俺にあーんしてくれるなんて、俺が風邪で寝込んでたとき以来なんですけど!!


「え、あ、あの・・・・ご、ごめん・・・・」
「ちがッ!そ、そうじゃなくて・・・・っ」


しゅーんと落ち込んだ先生に、俺はみっともないぐらいあわあわ慌てた。

十年後の先生はちょっと寂しそうな顔で皿にフォークを置こうと手を下げる。

その細い手首をがしっと勢いよく掴んで、ばくりとフォークに乗っかってるオムレツを食べた。

驚いてる十年後の先生の前で、ごくりと飲み込む。


「・・・・すっげー美味い!美味いよ先生!」


マジで美味い!これはマジで美味いナイス十年後の俺!

十年後の先生は呆然と俺を見つめて、やがて嬉しそうに満面の笑みになった。


「そういえばさぁ、先生」
「ん?」


昼食を全部食べ終えて、俺は十年後の先生と優雅に食後のティータイム。

やっぱり十年経ってても先生が淹れてくれたお茶は格別に美味かった。


「加納と阿嶋って、まだ付き合ってんの?」
「竜吉と亮か?ああ、あいつらももうすぐ結婚する予定だぞ」


へー、あいつらも何だかんだで仲いいんだなー。

先生が差し出してくれたバスケットのクッキーを一枚。美味い。


「それに、亮はお前の秘書だからな」
「ぶッ!マジで?!」


ああ、と十年後の先生は頷いた。

頭いい奴だとは思ってたけど・・・・大会社の社長秘書か・・・・。

・・・・その大会社の社長が十年後の俺なんて、信じらんねえ。


「それ、どういう経緯?」
「んー?お前と亮は同じ国立の大学に行って、竜吉は私立の大学に行ったんだけど中退」
「・・・・あいつが行ける大学あったんだな・・・・」
「奇跡的にな。んで結局中退して、亮のヒモ状態だった竜吉を見かねたお前が亮を秘書、竜吉を執事長として雇ったんだよ。ちょうどこっちに移り住む予定だったしな」


へえ・・・・何か俺、すっげーいい奴じゃん・・・・。

しかし加納、ヒモとは情けない・・・・。


「ねえ先生」
「・・・・その呼び方、懐かしいけど何かむず痒いなぁ」


そう言って十年後の先生ははにかんだ。

えーっと、じゃあ、もう月代じゃないんだし・・・・。


「・・・・勝彦、さん・・・・?」


俺の言葉に、十年後の先生は驚いたように目を丸くした。

え、え?!や、やっぱ名前じゃ馴れ馴れしかったかな・・・・。

十年後の先生は困惑する俺を見つめて、やがて嬉しそうに微笑んだ。


「何?」
「あ、あの・・・・」


と、とりあえず、拒否ってわけじゃなかったらしい。よかった・・・・。


「か、勝彦、さんと俺が結婚したのって・・・・いつ?」
「ん?こっちに移り住むってことになったときだから・・・・今年で二年だな」


へえ・・・・十年後の先生、じゃない。

勝彦、さん・・・・俺についてきてくれたんだな・・・・。


「ねえ、勝彦さん」
「ん?」
「今、幸せ?」


俺の問いに、勝彦さんは目をぱちくりと瞬かせた。

内心、どきどきものだ。

俺はちゃんと、先生を幸せにできているんだろうか。

勝彦さんはしばらくじっと見つめて、ふっと優しく微笑んだ。


「・・・・ああ、すっげー幸せだ。幸せすぎて死にそう」


その言葉に、俺は底知れぬ安堵感を感じた。

心のそこがすっぽり抜けるぐらいの安堵感だ。よかったぁ・・・・。


「でも最近お前仕事で忙しいから、ちょっと寂しいかな」


そう言って勝彦さんは紅茶を啜った。

ちょっと、ってことは、大分寂しい思いさせてるな。

何やってんだよ十年後の俺しゃきっとしろよ仕事より奥さんだろ!

よし!今の俺は十年後、絶対先生にこんな思いさせない!決めた!

内心意気込む俺を勝彦さんが優しく、ちょっと意地悪く微笑みながら見つめていたことに、俺は気付いていなかった。





「はーッ!食った食った!」


勢いよくぼすんと音を立ててベッドに座って俺に、勝彦さんは目を細めた。

晩飯もすっげー美味かった!んで豪華だった!


「晩飯もすっげー美味かったよ!」
「お前十年経っても料理には五月蝿いからな」


くすくす笑いながら言った勝彦さんに、俺は苦笑いした。

俺は自炊してるし、料理すんの好きだから五月蝿いからな。

カップ麺冷凍既製品なんて論外!あり得ない!


「紅、風呂入るか?」
「あ、うん!」


夕方勝彦さんが庭見るか?って聞いてきたから一緒に散歩してた。

そしたらいつの間にか夕食の時間過ぎててさ!庭広いんだよ!

でも勝彦さんが育ててるハーブとかお茶の葉とか見れたし。

パパラッチが狙ってるから、移り住んでからあんまり外には出ないらしい。

窮屈じゃないの?って聞いたら、


「外に出たら出たで、もしかしたらお前が帰ってきてるかも、って考えるから楽しめないしな」


って言ってもらえて嬉しかったけど、そのあとのちょっと寂しそうな笑顔が俺は痛かった。

折角出かけてもそんなことで頭がいっぱいになるほど、俺十年後の先生に寂しい思いさせてんだな・・・・。

部屋に取り付けられてるバスルームは、びっくりするぐらい広かった。

戦闘の半分ぐらいの大きさだ。タイルとバスは綺麗な白で、床は濃いグレー。

白のお湯には赤いバラがいくつか浮いている。


「シャンプーとリンスはこれ、ボディソープはこれで、バスローブこれ使って・・・・」


そこで、勝彦さんは言葉を切って俺に振り返って俺をじーっと見つめた。

え、な、何・・・・?


「一緒に入る?」


にっこり笑って聞いてきた勝彦さんに、俺は心臓を吐き出すかと思った!

いいいいい一緒に入るとかそそそそそんなのッ!


「だ、駄目ッ!」


急に怒鳴った俺に、勝彦さんの肩が驚いたようにびくりと跳ねた!

ど、どうしよ!また哀しい思いさせたかも?!

勝彦さんは俺を見上げて、くすくすと笑った。・・・・え?


「わかったよ。じゃあはい、これタオルな」
「え?あ、はい・・・・」


勝彦さんは俺の手にぽん、とタオルを載せてバスルームを出て行った。


「・・・・やっぱり、こっちも一緒か」


バスルームを出る間際、勝彦さんが小さく呟いたのに俺は気付かなかった。

髪を洗って、身体を洗って、俺は少し熱めのそれに入った。

一人ちゃぽんとバラ風呂に浸かって、俺は深々と溜息を吐いた。

楽しい・・・・楽しいんだけど・・・・。

すごく、ものすごく先生に申しわけない。

俺、まるで浮気してる気分だ・・・・。

・・・・何考えてんだ俺!

勢いよく湯船から上がって、用意してもらってたバスタオルで身体を拭いてバスローブを着る。

バスルームを出ると、勝彦さんが振り返った。


「どうだった?」
「気持ちよかったよ」
「じゃあ俺も入ってくるわ。これテレビのリモコンな」


そう言って勝彦さんは上機嫌にバスルームに消えた。

ソファに座って、・・・・テレビ、日本語かな?あ、日本語だった。

十年前では駆け出しだった芸人が司会をする俺が知らない番組を眺める。

番組が半分ほど終わった頃、勝彦さんがバスルームから出てきた。


「あはは、暇そうだな?もう寝るか?」
「あ、うん・・・・」


振り返って、ちょっと後悔した。

濡れた艶やかな長い黒髪、上気した頬、バスローブから垣間見える白い肌。

また勢いよく前を向いてかちんこちんに固まった俺に、勝彦さんは不思議そうに首を傾げた。


「紅?」
「あ、いや、あ、あの、や、やっぱもうちょっとしてから・・・・」


やばいやばいやばいやばい、色っぽいって色っぽすぎるって!!

真っ赤になってかちんこちんになってる俺を見下ろして、勝彦さんは妖しくふっと小さく笑った。

ぱちん、と音立てて部屋の電気が消えた。


「え・・・・」
「紅」


驚いて顔を上げた瞬間、腕を引っ張られた。

よろめきながら立ち上がると、ベッドに勢いよく押し倒される!

さらりと顔にかかった髪に驚いて顔を上げると、俺の上に馬乗りになって勝彦さんが妖しく笑った。

流れる髪を手でかき上げる仕草は、そりゃもう色っぽい・・・・じゃなくてッ!!


「ななななな!ちょ、な、はッ?!」
「何遠慮してんだよ。嫁に」
「は!な、え、あ、ちょッ!」


パニック状態で意味のわからない声を上げる俺の口を勝彦さんが勢いよく塞ぐ!

思わず引っ込んだ俺の舌に、勝彦さんの舌が絡みついた!


「ん、む!ふはッ!ちょ・・・・勝彦、さん・・・・っ」
「浮気してるみたいで後ろめたいんだろ?」


その言葉に、俺の肩がぎくりと跳ねた。

俺のリアクションを見て、勝彦さんはふふんと勝ち誇ったように笑う。

また顔を俺に近付けて、俺の首筋に息を吹きかけて噛みついた。


「ぅあッ!ちょ・・・・っ」
「一生に一度の一晩だけだぜ?何もかも全部忘れて、この奇跡を楽しめよ・・・・」


耳元で囁かれた艶やかな誘い文句に、俺の背筋がぞくりと震えた。

熱い舌が俺の首筋を這って、柔らかい唇が俺の肌に落ちる。

時折与えられるちくりとした小さな痛みに、そういう刺激に慣れてない俺の身体はびくりと小さく跳ねる。


「ちょ、まって、勝彦、さ・・・・っ」
「まだ後ろめたいのか?安心しろって。向こうも今楽しんでる頃だろうよ」


・・・・え?向こう?何の話・・・・?

そのとき、バスローブの隙間に潜り込んだ細い手が、俺のモノをぎゅっと握った!


「うあッ!」
「てめえの目の前にいんのはてめえの恋人だ。歳くってるかくってねえかの違いだよ」


細い指が器用に俺のモノに絡みついて、俺のモノの先端を弄りながら竿をゆっくり扱き上げる。

親指に根元をくすぐられる感覚に、俺の身体が情けなく跳ねた。

空いていた片手が、細い身体を包みこむバスローブの紐に伸びる。

しゅるりと小さな音を立てて解けたそれと同時に、はらりと落ちたローブの下から白い身体が曝け出された。

薄暗い部屋の中で、月明かりに照らされた浮かび上がる白い身体は、やっぱり綺麗だった。


「一生に一度の体験だぜ?後ろめたさなんて感じんなよ。いつもみたいにがっつけ」
「か・・・・つひ、こ・・・・さ・・・・」


勝彦さんは俺を見下ろして、ふっと妖しく微笑む。

長い髪が俺の腹にかかる感覚に、俺は思わず喉を反らす。

・・・・髪が、腹って・・・・・・・・ちょッ!

気付いたと同時に、勝彦さんの舌が俺のモノの先端を舐める!

熱い舌が先端を抉って、括れをなぞると、竿を薄い唇に挟んで下に舐め下ろす!


「か、つひこ、さ・・・・だめだ、って・・・・ッ」
「ん、紅・・・・気持ちイ・・・・?」


熱い口のナカへ誘われて、俺は思わずびくりと身体を震わせた。

勝彦さんは俺のモノに舌を当てながら、上下に頭を振る。

その快感と俺の身体をくすぐる髪のこそばさに、俺は思わず強く目を閉じた。


「ん、ふふ・・・・おっきくなった」


俺の顔を覗き込んで笑った勝彦さんに、俺は顔が熱くなったのがわかった!

勝彦さんはそんな俺の顔を見て、意地悪くくすりと笑う。

勝子さんはまた俺の上に馬乗りになると俺にキスをする。

余裕で絡みつくその舌が何だか悔しくて、負けじと舌を絡め返した。

キスをしながら、細い腰が俺の身体から浮く。

俺のモノの先端に押し付けられた柔らかいそこに、俺の身体がびくりと跳ねた。


「ちょ、勝彦さん・・・・!」
「大丈夫だから。お前は寝てろ」


優しく、けど強く肩を押され、俺は浮かした肩をシーツに戻す。

勝彦さんは片足を立てると、俺の腹に手をついて腰を浮かせる。

ぐっと押し込んだ俺のモノに、勝彦さんは思わず背中を小さく反らした。


「ひ・・・・くッ!あ、ん・・・・ん・・・・ッ」


やっぱり苦しそうだ。けどやっぱ色っぽい。

勝彦さんは身体を震わせながら、ゆっくりと腰を落としていく。

身体を支えようと背中に腕を回したら、薄く目を開けて艶やかに微笑んだ。

・・・・・・・・・・ごめん先生。今、マジで興奮した。


「ん、く・・・・ん、はぁ・・・・入った・・・・」


勝彦さんはぺろりと唇を舐めて、うっとりと目を細めた。

・・・・あー、やばい。エロすぎる。

勝彦さんは俺の頬にちゅ、と軽くキスをして俺の胸に手をつく。


「ん・・・・お前、寝てていいからな。変に動かれたら痛いだけだし」
「・・・・十年経っても言うことキツイね」


勝彦さんは俺を見下ろして、にやっと笑ってみせた。

俺の胸についた両手を支えに、勝彦さんはゆっくりと腰を持ち上げた。

ゆっくりと、でも器用に、艶めかしく俺の上で勝彦さんは腰を揺する。


「ん、は!あ、は、ん、こ・・・・気持ち、イ・・・・?」
「う、く・・・・はッ!気持ち、イイよ・・・・かつひ、こ、さ・・・・っ」


俺の言葉に、嬉しそうに微笑んでそっと俺の頬を撫でた。

うっすらと目尻に溜まった涙を指で拭うと、勝彦さんは嬉しそうに目を細めた。

俺の胸につく手にそっと触れると、細い指が俺の指に絡まった。

じっとしてるのもあれなんで、下から突き上げると勝彦さんは声を上げて背を反らせた。

二人分の重みと律動に、最高級のベッドがぎしっと軋む。


「くっ、は!か、つひこ、さ・・・・も、出る・・・・から・・・・ッ」
「あ、はっ、ん、んんッ!い、いい、か、ら・・・・出して、いいから・・・・ッ」


快感にぼろぼろ泣きながら必死で俺の手に縋り付く勝彦さんは、確かに俺の先生だった。

お互いの手が震えるほど強く手を握りしめ合って、一層激しくお互いを貪る!


「あ、あっ、あっ、あッ!だ、め、も、い、く、イク・・・・ッ!」
「・・・・っ、は・・・・!先生・・・・ッ」
「ん、は、あ、あァアッ!こお・・・・こお・・・・っ!」


イク瞬間、お互いの頭の中にいたのは本来のパートナーだった。

少なくとも、俺の脳裏はまだ拙い俺を必死で受け入れてくれる26歳の先生でいっぱいだった。

・・・・ごめん、十年後の先生。でもきっと十年後の先生も、そうだったよね。

俺の胸にぐったり倒れこんだ勝彦さんは、俺を見上げて少し困ったように笑った。

汗で額に張り付く髪をかき上げてあげると、勝彦さんはうっとりと目を閉じた。


「・・・・浮気じゃん」
「ははっ、浮気だったな」


ぽんぽん、と細い背中を叩くと、勝彦さんは楽しそうに笑った。

お互いの顔を覗き込み合って、お互い意味もなく笑って深くキスをした。

ごろんと寝返りを打って、俺の上にいた勝彦さんを組み敷いた。


「じゃあ、一生に一度の浮気、心ゆくまで楽しませてもらいましょーか」
「お、やっとその気になったか」


俺の首に腕をまわして、勝彦さんは妖しくにやりと笑った。

そうだねあんた最初っからノリノリだったもんね。

十年後の俺にバレてナニされても知らないからね!


「・・・・ま、一回こっきりじゃねえんだけどな・・・・」
「え?どういう


俺の言葉は勝彦さんの口のナカに消えた。

深く唇を合わせあって、お互いの舌を絡め合う。

俺は勝彦さんのさっきの言葉なんか一瞬で忘れて、今この状況にすぐに溺れた。

夢中で勝彦さんの唇を貪る俺を見て勝彦さんが目を細めたなんて、俺は知らない。

唇を離して、細い身体をうつ伏せに組み敷いて、細い足を片方持ち上げて、

さっきまで俺を受け入れていたそこに、ゆっくりと俺のモノを押し込んでいく。

一度俺の受け入れたそこはさっきよりは大分楽なようだ。

必死でシーツを握りしめる白い手に、そっと自分の手を被せてぎゅっと握りしめた。


「ん、は、あ、あっ、あっ、アッ!ひ、く・・・・こ、ぉ・・・・こお・・・・ッ」
「は・・・・勝彦さん・・・・っ」


持ち上げた足をさらに持ち上げて、最奥深くにまで捻じ込んだ!

その瞬間、勝彦さんは大きく身体を震わせると目を見開いて、シーツを握りしめる手に力を込めた。


「や、あ、あ、アッ!だ、め、ふか・・・・!あ、あっ、あっ!は、はげ、激し・・・・っ」


ただ俺は、一心不乱に細い勝彦さんの身体を突き上げた。

本当に十年後の先生に溺れていたのか、26歳の先生に逢えない寂しさを紛らわすためなのか、

結局最後まで、わからなかったけど。


「あ、あっ、あっ、だ、め、こ・・・・はげ、し、あ、あっ、アッ・・・・!」


手が震えるほど強くシーツを握りしめて、泣きながら快感に歪んだ顔で俺を見上げる。

・・・・ねえ十年後の先生、もう十年も俺と一緒にいるんだよね。

だったらSEXしてるとき、ナニしたら俺が興奮するかわかるもんでしょ・・・・。

・・・・あ、その顔はもしかしてわかってる?

細い身体をぎゅっと抱きしめて、さらに強く細い身体を突いた。


「ひぁあアッ!あ、だ、め、だめぇ!あ、い、イク!イク・・・・ッ」
「・・・・ッ!」


力いっぱい身体を抱きしめて、もう一度勝彦さんのナカで果てた。

勝彦さんは身体を震わせながら、長く息を吐いた。

もう歳だから、とか言わないよね?26歳んときみたいに!

26で盛りの俺の相手、毎日してんだもんな!

細い肩を掴んで無理矢理仰向けにさせて、ベッドに強く押し付けてもう一度一気に捻じ込んだ!


「ひ、ああァァアッ!!」


勝彦さんは大きく目を見開くと、弓なりに細い背を反らした。

俺が腰を揺すると、震える手が必死で俺の肩を掴んだ。

押し返そうとした手から段々力が抜けていく。

離れまいと必死に立てられた指の伸びた爪が、俺の肉に食い込む。


「あ、ああぁッ!あ、だ、め!こ、こぉ!だめ、も、無理ぃ・・・・っ」
「無理じゃないでしょ、勝彦さん。楽しめって言ったのそっちじゃん」
「そ、だけ、ど、は、あ、あっ、あっ、あ!でも、あ、も、ゆるし、て・・・・ッ」


片手を白い身体に這わせると、勝彦さんは悲鳴のような声を上げてびくりと身体を震わせた。

快感で虚ろになった瞳が、涙を流しながら俺を見上げる。

赤く色づいた唇の端から飲み込み切れなかった唾液が伝う様は、そりゃもう卑猥だ。


「あ、アッ!あ、だ、め、も、おねが、ゆるし、て・・・・あ、あっ!あっ!んんッ」


必死で俺の肩にしがみついてた手が、爪を立てたままずるずると落ちる。

皮膚を引っ掻かれる痛みに、俺は一瞬顔を歪めた。

片足をもう一度持ち上げて、さらに強く腰を打ちつける!


「あァアんッ!も、だ、め、あ、あ、あッ!」


縋るように伸ばされた震える手をぎゅっと握りしめて、強く指を絡めた。

そのときばかりは手の甲に強く立てられた爪の痛みも感じなかった。

ベッドが軋む音と肌と肌がぶつかり合う音、卑猥な水音が広い部屋に響く。

ベッドで二人まったりしてるときに勝彦さんに聞いた話、「あのベッドがあんな軋んだのは初めてだった」らしい・・・・。


「あ、も、だめ、イク、イク、こぉ、こぉ・・・・ッ」
「・・・・ッ、先生・・・・先生・・・・!」


お互いの身体を強く抱きしめあって、十年後の先生の悲鳴にならない声を聞きながらベッドに沈んだ・・・・。










窓から差し込む朝の優しい陽の光を感じながら、俺はベッドに頬杖をついて寝転んだまま隣の可愛らしい寝顔を眺めてた。

さらさらの長い黒髪を撫でてると、閉ざされていた目がピクリと震えた。

んん・・・・と可愛らしい声を小さく漏らして、ゆっくりと目を開けた。

寝ぼけ眼の瞳を覚ますようにぱちぱちとゆっくり瞬きして、またゆっくりと俺を見上げる。


「おはよう、勝彦さん」
「・・・・浮気魔」


おお、起きて第一声がそれとは手厳しい。

苦笑いをする俺を見て、勝彦さんはくすくすと笑う。


「どうだった?若い頃の俺」
「可愛かったよ」
「何だよ。今は可愛くないってか」
「まさか。俺にとって勝彦さんはいつまで経っても最っ高に可愛いよ」


ご機嫌を取ろうと頬にキスしたら嫌と突っぱねられた。

ひ、ひっでー・・・・。


「大体、勝彦さんだって若い頃の俺誘っただろ。ひっでーよな。あの後俺修羅場だぜ?勝彦さんの爪跡の所為で」
「だって16歳のお前、チョー可愛かったんだもん」


だもんって・・・・可愛いなぁもう。

でも、いくら旦那の子どもの頃だからってあんな誘うことなくない?

今の俺でもあんな誘ったりしないじゃん。


「俺にも今日あーんしてくれるよね」
「やだ」
「何で」
「だって今のお前可愛くないんだもん」
「か、可愛くないって・・・・」


がーん、結婚して二年目の奥さんに可愛くないって言われた・・・・。


「それに今すっげー身体だるいし。あんな激しかったのも久しぶりだったしな。お前もう歳?」


と・・・・?!こ、の、野郎・・・・!

ただでさえ最近あんまり外に出なくて体力落ちてるし、身体弱くなってるからこっちは我慢してるってのに・・・・!

26歳の盛りの旦那捕まえてもう歳?って何だ!!

大体26であんな淡白だったのあんたぐらいだよ!!


「?紅?」
「・・・・人の気も知らないで」
「え?」


俺の顔を見て、勝彦さんはぎくりと顔を強張らせる。

どうせ冗談だったんだろうけど、俺は聞き捨てならなかったね。

手首を勢いよく掴んで引き寄せて、自分の身体の下に組み敷いた!

唖然とした顔で俺を見上げる勝彦さんに、俺はにやりと極上の笑み。


「だったら今夜は激しーの覚悟してもらおっかな?子作り。何なら今から?」
「なッ!じょ、冗談じゃねえか・・・・な?紅?」


蒼い顔で必死に俺のご機嫌取りをしようとするけど、既に遅し、だよ。

テーブルに置いてた携帯を取り出して電話番号を一つ。


「もしもし?竜吉?」
『・・・・あ?紅?お前、元に戻ったのか?』
「俺今日会社休むから。亮に頼むっつっとけ」
『は?』


俺の下で、勝彦さんの顔がさらに蒼褪めた。

必死で携帯を取り上げようとする手をかわして、腕を掴む手に力を込める。


「ちょ、待って、ねえ、紅・・・・!」
「あと、お前今日俺たちの部屋に近付くな。全員だ。そう言っとけ」


竜吉の抗議の声を無視して通話を切って床にぽい。

真っ青になってる奥様を見下ろして、にっこり。


「今日は覚悟してね?情熱の子作り朝までコース


さらに蒼褪めた勝彦さんの身体を抱きしめて、首筋に顔を埋める。

あわあわ慌てて俺を引き剥がそうとしていた手が、ぴたりと止まった。


「紅?」
「・・・・ずるいね。昔の俺に伝言するなんて」


一瞬ぽかんとした気配と、すぐに見当がついた気配。

十年経っても細い手が、短い俺の髪を撫でた。


「俺に言えばいいだろ。夫婦じゃねえか。寂しいなら寂しいって言ってよ・・・・」
「だって、言ったらお前、今日みたいに会社休むだろ?」
「一日や二日亮に任せたって大丈夫だよ。それに・・・・俺だって、勝彦さんと一緒にいれなくて、寂しいよ」
「でも駄目。お前にはやるべきことがあるんだ。それをちゃんとして。俺はそれを条件にしてお前について来たんだぞ」


そうだけど、でも・・・・自分の奥さんを寂しい目になんてあわしたくないよ。

身体を起こして勝彦さんを見ると、勝彦さんはそっと目を細めた。

情けない顔をしてるだろう俺を見上げて、勝彦さんは優しく微笑んで俺の頬を撫でた。


「いいんだよ、俺は。俺、お前が働いてるとこ見るの、好き」
「勝彦さん・・・・」
「ちょっと寂しいぐらいがいい。そうしたら、お前と一緒にいるとき、もっと幸せだから」


・・・・なんて、俺にはもったいない奥さんなんだろう。

ぎゅっと抱きしめると、勝彦さんは優しく俺の肩をぽんぽんと叩いた。


「・・・・情熱の子作り朝までコース、する?」


勝彦さんの肩に顔を埋めたまま、俺は首を横に振った。

元々そんなコトするつもりないよ。

ただ理由つけて、傍にいたかっただけ。

ただ理由つけて、一日中二人でいたかっただけ。


「相変わらず、甘えん坊」


耳元で囁いて、くすりと笑った。

抱きしめる腕に力を込めると、勝彦さんは嬉しそうに笑った。


「ああ・・・・ほら、いい天気だ。庭出るか?紅」


身体を起こす。

優しく微笑んで俺を見上げる勝彦を見て、俺は情けないほど幸せそうな笑顔を浮かべたに違いない。



(でもそろそろ夫の威厳取り戻すためにやっとくかな。情熱の子作り朝までコース)





<未来編・Fin>
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完成まで長かった<未来編>・・・・前座長すぎた・・・・。
26歳有岡の36歳月代の呼び方は普段と人前では「勝彦さん」、イチャイチャ中とSEX中は「勝彦」です。
普段から呼び捨てにするかさん付けするか悩んだんですが、有岡の「勝彦さん」は萌えると思ったのでこの設定(笑)
36歳月代は「寂しい」って言ったら26歳有岡が会社ストップさせてでも休むのわかってるんで滅多に言いません。
きっとこの二人は金婚式になってもラブラブだと思います(笑)
この二人が住んでんの、どこなんですかね(ヲイ)
龍瀬的にはフランスの片田舎です。フランス好きw
可愛いなぁもう、の有岡(26歳)の顔は(*´∀`*)←これです。
ちなみに有岡に夫の威厳なんて最初からありません。



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