恋してピューピル!<出逢い編>(手淫・口淫・外出)



『先日退職なされました矢尾先生に代わって新しく赴任されました先生を紹介します』


校長の話を右から左へと聞き流しながら自分の胸元へ視線を落とす。

・・・・ネクタイ、曲がってねえな?

身だしなみなんて俺は気にしねえけど、母さんがうるせえんだよなぁ。

曲がってないのを確認しながら、もう一度ネクタイを締め直す。

・・・・つか、やおって誰だっけ。ああ、生徒にセクハラしたのがバレて首飛ばされたおっさんか。

・・・・ていうか、ここ、男子校だよな。生徒にセクハラって・・・・男子に?

・・・・手ぇ出された奴も可哀想に。


「月代先生、よろしくお願いします」
「ああ、はい」


ぼんやりしてたら校長が声をかけてた。

校長に一礼して、俺は前に出た。

それと同時に、生徒からどよめき?みたいなのが上がった。

うーん、なーんかいっつもこんな反応なんだよな。

学生時代からずっとダチとかにも言われ続けたなぁ、「綺麗」だって。

つーか俺男だから綺麗って言われても嬉しくないんだけどなぁ。

んー、つか、俺そんな綺麗な顔してるか?

ふと、俺は視界に映ったものに気を取られた。

赤だ。赤っつーか、赤に限りなく近い茶色。

何でだ。それが俺の視界を掴んで放そうとしない。


『矢尾先生に代わって新しく赴任しました、月代勝彦です』


いつもと同じように、淡々と平坦な抑揚のない、事務的な口調で名乗った。

ざわざわと周りがざわめく中、俺は黒の中によく映える赤だけに目を奪われていた。





恋してピューピル!<出逢い編>





唇に張り付けた笑みが引きつったのが自分でもわかった。

目の前には机に突っ伏して眠りこける図体だけは無駄にでかいガキ。

こいつの横の席の奴(名前まだ覚えてねえ)がシャーペンでつついて起こそうとしている。


「のは」


起こされた当の本人は実に間抜けな声を上げて目を開けた。

のそりと身体を起こして間抜け面のまま振り返った。

こいつをつついた奴がシャーペンで俺を指す。

俺は引きつった笑みを張り付けたまま、結構分厚い教科書を振り上げた。

そのまま何の躊躇いもなく、教科書を振り下ろした。

脳天目がけて、教科書の角で、

おー、いい音したな。ざまーみろ。

頭を押さえながら悶絶する男を、俺は教科書で肩を叩きながら見下ろす。

あー、あれだな、声にならない悲鳴を上げる奴ってこういう感じなんだろうな。

涙目になりながら俺を見上げてきたこのくそガキ、有岡紅を見下ろす。

こいつ目立つんだよなぁ。顔だって悪くねえし、背も高い、

何より目立つのが、限りなく赤に近い、茶色の髪、

こいつが目立つからだ、俺が教師になって初めて、1週間で生徒の名前を覚えたのは。


「て、め・・・・月代ぉ・・・・っ」
「この俺の授業で寝るなんていい度胸だな有岡。寝るなら他の授業で寝やがれ」
「いやそれもどうよ」


俺の言葉に有岡の隣の奴が律儀にツッコむ。誰だっけこいつ。

つーか先生サマの名前を呼び捨てなんて偉そうな奴だな。

確か大会社の社長の息子だっけか?

最近の親はてめえのガキにどんな教育してんだ。

有岡は凄い目で俺を睨み上げてきたが、うーん、あんま怖くねえなぁ。


「何しやがんだこの暴力教師!」
「謝られこそすれ、文句言われる覚えはねえな」
「体罰で訴えるぞてめえ!」
「おーやってみろ。出るとこ出てやるぞ、ああ?」


いきなり立ち上がって俺にガン飛ばしてきやがった有岡を睨み返す。

ちょっと意外そうな顔がちょっとだけ可愛かった。

ちょっとだぞ!ちょっとだけだぞ!ホントにちょっとだぞ!

大体こんな無意味にでかく育ったガキ相手に可愛いも変な話だな・・・・。


「ほら、席着け。今度寝たら成績下げるからな」
「はーうぜー」


うぜえ?うぜえっつったぞこいつこの野郎。

俺からしてみりゃお前らの方がうぜえぞこの野郎。

ガキならガキらしく言うこと聞けこの野郎。

何て考えてたらこのクソガキ教室出て行こうとしやがった。

咄嗟に追いかけてその手を掴む。

・・・・でけえな。何かごつごつしてる。

・・・・あったけえな。

いや、俺が冷え性だからそんな風に思ったんだ、うん。

いや、俺冷え性なんだよ。これマジだぜ?嘘じゃねえって。

だからこいつの手を掴んだ瞬間心臓が跳ねたのはあったかかったからだ。

いや、ホントこんな手ぇあったけえ奴久々なんだって!

・・・・あれ、何で俺言いわけしてんだ?


「待て。どこに行く気だ」
「・・・・うるせえなぁ・・・・どこだっていいだろ」


こいつがこんなに近くに来たのは、正直これが初めてだ。

・・・・やっぱでけえな、こいつ。

いいもん食ってるからか?つかこいつまだ身長伸びてんのか?

俺なんて高2で成長止まったぞこの野郎。

は?羨ましくないから。羨ましくないって!

ガタイもいいなこいつ。ムキムキってわけでもねえけど。

何つーかな、適度に筋肉質?みたいな?

・・・・いいなぁ。俺昔っから筋肉つかねえ体質なんだよなぁ。

しかもなかなか太んねえし。いいな、クソ、馬ー鹿。

・・・・腕も結構太いな。やっぱ手がぬくいから身体もぬくいのかな。

・・・・え?身体?え?何でそんな体温のこと考えてんの俺。

いやいやいやいや気持ち悪い!気持ち悪いから俺っ!

うぎゃーッ!何かどんどん気持ち悪くなってきた!

自分自身に気持ち悪さを感じてたら手を振り払われた。


「有岡!」


俺の声を無視して有岡は行ってしまう。

酷い不愉快さを感じながら俺は有岡の広い背中を睨み続けた。

有岡の手を掴んでいた右手が珍しく熱かった。










「あれ?月代先生どちらへ?」


職員室を出て行こうとしたら声をかけられた。

えーっと・・・・確か・・・・英語の・・・・、・・・・

いや、覚えてないわけじゃない。ド忘れしたんだ。覚えてないわけじゃねえぞ!

そう、あれだ、まだ俺は新任だからな!

・・・・赴任して三ヶ月経ってるケド。


「有岡が授業サボってるみたいなんで探しに」
「有岡・・・・ですか」


俺が言うと英語教師(多分)は黙り込んだ。

何だ、何なんだよ。

有岡探しに行ったら何か都合でも悪いのか?


「月代先生・・・・有岡には苦労してるでしょう?」
「え?あー・・・・ええ、まあ、そうですね」


そうだな、寝るぐらいなら学校来んな、までは思ってねえけどな。

え?いや、思ってないって、全然思ってないってば。

寝るとこみてたらその髪の毛全部毟りたくなるとか思ってないから!

何故か黙り込む英語教師をぼんやりと眺める。

何なんだよ。言いたいことがあるならさっさと言えよ。

・・・・あれ、俺なんか早く有岡探しに行きたがってるみたいじゃね?


「あー、有岡には、あんまり関わらない方がいいですよ」
「は?」
「あいつ、ああいう性格でしょ?素行もよくないですし、悪い噂も絶えませんしね」


はあ、と我ながら間の抜けた声が出た。

まあ確かに性格には問題あると思うけど、そんな悪そうな奴か?

なーんか強がって意地張って突っ張ってるって感じだけど。

・・・・確か、あいつの父親会社経営してたな。しかも結構でかい会社。

生まれたときからそうなら、あいつ結構寂しい思いしてたんじゃねえか?

・・・・まあ、俺もそういうの、わからんではないからな。


「ご忠告ありがとうございます」


それだけ言って職員室を出て行った。

後ろで名前呼んでるけど無視だ無視!

とりあえずどっから探すかなー。

不良と言えば屋上か?何とかと煙は高いところが好きって言うしな。

・・・・あー、何でだろ。すっげえ胃がムカムカする。

昨日飲んだっけな?

埃っぽい階段を上に上に上って行く。

重い扉を開けると、空っ風が髪を乱した。

それを手櫛で直しながら屋上を見渡す。


「あ、見ーっけ」


顔を覗き込んだ俺に、驚いたのだろう有岡が目を見開いた。

目を丸くしてぱちくりと目を瞬いている。

その姿が年相応でちょっと可愛かった。


「何でお前こんなとこいんだよ!」
「こんな赤い髪してたらどこにいても目立つっつーの」


ホントは勘だけど。

わしゃわしゃと髪をかき混ぜると有岡が嫌そうに腕を振り払ってきた。

・・・・何か長い割にはいろんな方向に跳ねてるから固いのか思ってたのに、意外と柔らかいんだな。

・・・・結構気持ちよかったな。もっと触りたかったな。

これ染めてんのかな。いや、染めてねえな。地毛か。

そっか、これ染めてねえのか。いいな。綺麗な色してるよな。


「何の用だよ」
「お前が授業飛び出していったから探しに来たんだよ」
「え」


目を丸くしたこいつに俺も驚いた。

え、何でそんな驚くんだよ。


「ほら」
「え」


持って来てた大量のプリントを差し出す。

有岡はぽかんとしながらそれを受け取った。

よし、受け取ったな。


「そのプリント全部埋めて明日までに提出な」
「はぁ?!おまっ、これ何枚あると思ってんだよ!」
「そうだな。ざっと10枚だな」


10枚どころの話じゃねえけど。四捨五入四捨五入。

わざとさらっと言ってやると案の定睨んできやがった。

うん、やっぱ別段怖くねえよなぁ。癇癪起こしたガキみてえ。あ、ガキか。

ぱらぱらとプリントを捲っていくたびに眉間の皺が深くなっていく。


「これ何枚あるんだよ!」
「・・・・45?」
「どこか10枚だよ!頭おかしいんじゃねえのバーカッ!!」
「四捨五入だ」
んな四捨五入聞いたことねえよ!


んだようるせえな。細かいことにこだわってんじゃねえよ、ちっちぇえ男だな。

また冷たい風が吹いた。つーかここ寒いな。

目にかかった前髪を横に流すと、有岡が何故か目を丸くした。

唇を真一文字に引き結んで、ごくりと喉を鳴らす。

え、何、何だよ。

有岡を見上げてその目を見た瞬間、どくんと心臓が鳴った。

何かの光を帯びた、切れ長い瞳、

その光はまるで欲情のようだ。

ぞわりと何か、何か得体の知れないものが俺の背筋を撫でた。

それは悪寒に似てはいたけれど、不思議と不愉快さは感じなかった。

つーか、俺馬鹿?男が男に欲情するわけねえだろ。


「うああぁぁぁぁッ!!」


いろんなこと考えてたら突然有岡が頭を抱えて叫んだ。

めちゃくちゃ驚いた所為か俺の肩が跳ね、足が思わず一歩後ろに下がる。

つか何だよいきなり!めちゃくちゃびっくりしたじゃねえか!


「ど、どうした、お前、病気か?」
「誰が病気だッ!」


思ってたことが口に出てらしい、怒鳴られた。うるせえ奴だな。

ぎゃんぎゃん文句を言う有岡にうんざりしつつも俺は考えてやる。

うーん、確かに一日で45枚は多いな。つかこいつが寝てんのが悪いんだけど。

どーすっかなー。あ、そうだ。


「じゃあ一ヶ月で300枚やるのと一日で45枚やるの、どっちがいい?」
「はあッ?!」
「今日から一ヶ月だぞ?一日10枚やれば終わるだろうが」


そう言うと有岡は黙り込んだ。

これは勝ったな、と思って、俺は笑った。










鍵穴に鍵を突っ込んで回すと、ガチャリと音を立てて鍵が開いた。

はー、疲れた。いつものことだけど疲れた。

さっさと風呂入って寝たいけど明日の小テストの用意しねえと。

はー、だりー。やっぱ教師になんかなるんじゃなかったな。

けど教師って余計なことしなけりゃクビもねえし、倒産もリストラもねえしな。安月給だけど。

大体ガキに勉強教えて学校卒業させて進学させりゃいいだけじゃねえのかよ。

保護者との連絡とか取り合うのだりぃし、生徒は生徒でうぜえし。

誰だ今最低教師とか言った奴。ホントのこと言って何が悪い。

まあ向こうもうぜえって思ってるからお相子だろ。

はーかったりいな。機械相手の仕事の方がよかったかな。あ、駄目だ。俺機械全部駄目だった

スーツをソファに放り投げてネクタイを無理矢理解く。

やっと息が吐けた気がする。ネクタイって堅苦しいんだよな。

あー、晩飯どうすっかなー。作んの面倒だな。カップラーメンでいいか。

・・・・黒凰に赴任してからカップラーメン増えたな。あ、就職してからか。

いちいち作んの面倒なんだよな。たまには家帰るかな。

・・・・いや、それじゃあ何のために一人暮らししてんだよって話だな。

つか、教師選んだのはまあさっきのこともあるけど、何より家出たかったんだよな。

俺の本当の父親は俺が中1の頃に事故で死んで、お袋が女手一つで俺を育ててくれた。

そんなお袋も俺が高校に入学した頃にバツイチの人と結婚した。お互い子連れだった。

お袋は今も幸せそうだ。いい人なんだよ。連れ子も俺によく懐いてくれてたしな。

でも俺は父親っ子だったから。そりゃもうお袋が焼きもち妬くぐらい。

それに俺は本当は再婚には反対だったんだ。お袋が幸せそうだったから結局言えなかったけど。

お袋は今まで俺のために一生懸命で自分のことなんて二の次だったから、お袋が幸せならって、

でも俺の父親は一人だけで、それでいいと思ってる。今でもだ。

嫌いじゃねえよ。いい人だし、尊敬もしてる。

けど、心からは「父さん」と呼べない。


「・・・・俺、嫌な奴だな・・・・」


呟いた言葉は無音の部屋に響かなかった。

何か一人でしんみりしてるって寂しくね?

はーうざい。自分がうざい。風呂入ってさっぱりするか。

そう思いながら風呂を沸かそうとしたとき、ピンポーンとインターホンが鳴った。

・・・・誰だよ。宅配便か?明日来いよ。

面倒だな。無視るか。うん、それがいい。面倒だ。明日持ってこい。

しばらく間があって、またインターホンが鳴った。しつこいな。

それでも無視してたらあろうことか連打してきやがった。どこのガキだ。

あーもう!出りゃいいんだろ出りゃ!

思いっきりフローリングを踏みながら玄関を勢いよく跳ね開けた。


「うるっせえな!一回鳴らせばわかんだよ!」


扉の向こうに、俺を見て目を見開く男が立っていた。

そいつを見て、俺も多分目ぇ見開いたな。

え、嘘だろ?何で、


「有岡・・・・?」
「月代・・・・!」


お互いの顔をガン見してぱちくりと目を瞬いた。

え、何でこいつこんなとこにいんだよ?

・・・・まさか新しく引っ越してきた奴って有岡?!


「・・・・昨日隣に引っ越してきた有岡デス」
「・・・・はあ、ドーモ」


差し出された菓子折りを受け取ったのは条件反射だ。

・・・・いや、だってくれるっつってんのに断んのも失礼だろ。

社交辞令であって、別に菓子が欲しかったわけじゃねからな!

つーか、こいつ人の部屋見て何うわあって顔してんだけど。失礼な奴だな。

そりゃあ来る奴来る奴に殺風景とか生活感ないとか言われるけど!

俺はごちゃごちゃしてんのが嫌いなんだよ!必要最低限度のもんがありゃいいじゃねえか。


「何だよ。用済んだならさっさと帰れ。宿題終わったのか」


じろりと睨んできた有岡にふんと鼻を鳴らした。

本当のことだろうが。言って何が悪い。

有岡は俺を見てふと眉を寄せた。


「・・・・お前、一人暮らしか」
「あ?そうだよ」
「恋人とかいねえのか」


有岡の言葉に俺は押し黙った。うるせえな、放っとけよ。

何だその意外そうな顔は。俺に恋人がいないのがそんなにおかしいか。

そりゃあいなかったわけじゃねえがな。あたしを顧みてくれないとか言ってヒステリック起こしやがったから切った。

しょうがねえだろうが。俺だって教師がこんな忙しいなんて思ってなかったんだよ。公務員ナメんなよ。

・・・・つーか俺、前の女が二人目なんだよな。俺からフったの。

大体いっつも向こうが付き合ってくれって言ってきて、別れてくれって言ってくるんだよな。

絶対浮気してるとか、あたしじゃ釣り合わないとか、わけわかんねえの。

釣り合う釣り合わないは意味わかんねえけど、俺浮気なんてしたことねえんだけどな。面倒だし。

つか何いきなり聞いてきてんだよ、くそ。さっさと帰れ。


「・・・・お前、晩飯は?」
「これから食おうとしてたところだよ」


苛々してきた。何なんだよさっきから。さっさと帰れよ。

そうだ、さっさと帰れ。苛々するから。

その赤い髪が、やたらと目に入るのが嫌だ。

そう言えば柔らかかったな。クセ毛か。

・・・・もう一回触ったら怒るかな。

・・・・いやいやいやいや、何考えてんだ俺。

考え込んでいる有岡を見上げる。何なんだよ。さっさと言えよ。んで帰れ。


「・・・・お前、カレー好き?」
「は?」


マジわけわかんねえ。こいつ病気なんじゃねえの。美容院行けよ。髪切れ。

こいつマジでおかしいんじゃねえの。大丈夫か?


「別に好きでも嫌いでもねえよ」
「昨日作り過ぎたんだ。食わねえ?」
「いらねえ」


何が哀しくて生徒の、しかもこいつの世話になんかなんなくちゃなんねえんだ。

大体俺は教師だぞ。確かに今は勤務時間外だけど、逆ならまだしも教師が生徒の世話になるなんてありえねえ!

さっさと帰ってくれ。俺は飯食って明日の用意して風呂入って寝たいんだよ。


「ショートケーキもあんだけど」


・・・・、・・・・・・・・。

ああわかってるよ。自分の身体のことだ。俺が一番よくわかってる。

「ケーキ」に反応したってことは自分でもわかってる。みなまで言うな。

あー悪かったな!25過ぎても甘いもん大好きで!

誰がいるか!こんな奴が買ってきたケーキなんか、っつーかお前ケーキ食うのかよ!

意外だな・・・・何かあんま甘いもん好きじゃなさそう。俺もよく言われるけど。

・・・・ケーキ、なあ。

少しだけ有岡を見上げる。

いやいやいや!駄目だ駄目だ駄目だ!大体こいつの世話になるのが一番嫌だ!

ふんとそっぽを向いた俺に、有岡は小さく息を吐いた。


「今日もらったプリントでわかんねえとこあんだけど」


俺は思わず有岡に振り返っていた。

プ、プリント・・・・。そ、それじゃあしょうがねえよな、うん。

生徒に勉強を教えるのが教師の仕事だからな。

だから久しぶりにまともな飯が食えるとかラッキータダでケーキ食えるとか思ってねえからな!

ホントに思ってねえんだからな!


「言っとくけど、俺はお前が今日のプリントでわかんねえとこがあるって言うから来たんだからな。カレーとケーキはついでだからな」
「はいはい」


俺の言葉を小さく笑って聞き流す有岡に、俺はむすっとした。

んだよこの野郎、腹立つな。大人ナメてんじゃねえぞ。

目の前の結構でかい皿に盛られたカレーを眺める。

・・・・普通に美味そうだな。市販品か?つかこいつ一人暮らしだったっけ?

・・・・こいつが作ったのか?うわ、何か怖くなってきた。


「いただきます」


有岡は目の前でテーブルに肘をついて俺を眺めている。

俺はスプーンでカレーを掬うと、怖々それを食べた。

・・・・え、嘘、マジで?


「・・・・美味い」
「だろ?メイドイン俺」


自信を持って言える。これは正しい使い方だ。

俺はぎょっとした。え、だって、嘘だろ?


「い、意外だ・・・・」


あ、また口に出してた。でも本当に意外だったんだって。

だってこいつどっからどう見ても料理なんてしそうにないぞ?!

カレーはちょうどいい辛さだし、具だって食べやすいサイズだし、ルーはこれ混ぜてんのか?

何せ美味い。そんじょそこらの店屋より美味い。これなら一週間ぐらい食っても飽きねえな。

俺はスプーンを咥えたまましげしげとカレーを眺める。

あ?行儀悪い?放っとけ。癖なんだよ。

俺を見ていた有岡がごくりと喉を鳴らした。

・・・・腹減ってんなら自分も食えばいいのに。

そして俺ははっとする。


「ま、まさかケーキも・・・・?!」
「どこのオトメンだ俺は。妹だ妹」


俺の言葉に有岡は間髪入れずにツッコんだ。あー、なんだ。よかった。

そっか、こいつ妹いたっけ。何かそんな感じ。

カレーを二杯分完食した。普通に美味かった。いや、すっげえ美味かった。

おわかりを要求したらちょっと意外そうな顔された。俺昔から結構食うんだよな。そのわりに太んねえけど。

食後にショートケーキを食ってたらもう一人分もらった。何かこいつ意外といい奴だな。

・・・・あれ、俺餌付けされてる?


「あ、そういえばどこがわかんねえんだよ」


フォーク咥えながら聞いたら一瞬顔を顰められた。

いい加減そろそろこの癖直さねえとな。行儀悪いし。


「アリストテレスが死んだ日」


有岡の言葉に俺はぱちくりと目を瞬いた。

あーそう、アリストテレスが死んだ日ね。

ふーん、そっかぁ。流石の学年一位サマもそこまではわかんねえか。

テーブルに頬杖をついて指先でフォークを揺らして遊ぶ。

案の定有岡の奴は不機嫌そうな顔をしている。


「知りたい?」
「いいからさっさと教えろよ」
「一ヶ月後にお前が全部プリント終わらせたら教えてやるよ」


楽しくてつい笑ったら不機嫌そうに顔を顰めた。

何かこいつからかうと楽しいな。

さて、テストの日が楽しみだ。


「さっさとやれよ」


イチゴにフォークを刺して口に放り込むと、生クリームが頬についた。

それをぺろりと舐めると、有岡がまたごくりと喉を鳴らす。

・・・・こいつイチゴ好きなのか?これもまた意外だな。

はー、ケーキ美味かった。って、あ、そうだ、忘れてた。


「俺帰らねえと」


立ち上がった俺に有岡は目を丸くした。

え、何?何だよ。他にわかんねえとこあんのか?


「・・・・何で?」


いや、何でって、

何言ってんだこいつ。ホント変な野郎だな。

教師って忙しいんだぞ。普段から教師ナメてんだろ。

まあ俺もナメてたけど。


「明日の小テストの準備しなきゃなんねえんだよ」
「・・・・ふぅん」


そう言って有岡も立ち上がった。

ワンホールの半分くらいの大きさのケーキを貰った。

ラッキー、こいつって本当はいい奴なのかもな。

靴を履いて出ようとしたときに、ふと違和感。

自分の腕に視線を落とす。

有岡の大きな手が俺の腕を掴んでいる。

・・・・え、何?ケーキやっぱいんのか?

有岡を見上げたら、有岡は不思議そうに俺を見返してきた。

視線を落とすと、有岡も下を見る。


「え?うわッ!」


有岡は声を上げて慌てて俺の腕を放した。つか気付いてなかったのか?!

何なんだよこいつ、意味わかんねえ。

有岡に掴まれた腕が、異様に熱い。


「あー、えっと、明日も、来ねえか?」
「・・・・は?」


本格的に意味わかんなくなってきた。何言ってんだこいつ。

でも不思議と嫌な気はしない。

・・・・何つーか、俺も、来たいっつーか・・・・。

飯美味かったし、甘いもんもあるからな!


「・・・・勉強、そう!勉強見てほしい!・・・・つーか」


何言ってんだこいつ。お前世界史学年一位だろ。つーかほとんどの教科一位じゃねえか。

・・・・うん、けど晩飯とデザートは捨てがたいな。

いや、けど時間外でも俺とこいつは教師と生徒だし、


「・・・・授業料の延長料金で晩飯も出すし」


ぴくりと自分の肩が跳ねたのがわかった。

いや、こいつの料理美味かったんだってマジで!


「ケーキもまだ残ってるし、これからも菓子送って来るっつってたし」


ぴくぴくとまた肩が跳ねた。

悪かったな重度の甘党で!

それに、こいつと一緒にいるのは、何つーか嫌じゃねえし、

退屈しねえっつーか、居心地いいっつーか、

うがー俺キモイ!気持ち悪い!!


「そ、そこまで言うなら・・・・来てやらんでも、ない」


気がついたら勝手に言ってた。どうしたんだよ俺。

ちらりと有岡を見上げると、嬉しそうな顔してたから驚いた。

ぎゅうと胸が締め付けられるような感覚がして、その後妙に哀しくなった。

んな嬉しそうな顔すんなよ馬鹿。お前、俺が嫌いなんだろ。

俺だって、お前なんか嫌いだよ。

いちいち視界に入るし、お前見てると苛々するし、俺の授業ずっと寝てるし、

ああ、もう、胸が苦しい。そんな顔で笑うな馬鹿。










「しゅーりょー!」
「はいお疲れさん」


机に突っ伏した有岡からプリントを受け取る。

計300枚のプリントの空欄にはすべてきちんと答えが埋まってる。

・・・・つか、こいつマジで300枚終わらせやがった。

まあつまりあれから一ヶ月経ったということだ。

朝会で初めてこいつを見て、担任になってから三ヶ月。

真剣な顔で答えを解いていくこいつに何故かしらときめいて自己嫌悪に陥って二週間。

今日で俺の世界史の延長授業も終わり。

・・・・今日、で・・・・、

そっか、今日で終わりか。まあそりゃ当然だよな。

もうこいつの部屋に来る用事もないし、つかあるわけねえけど。

・・・・何か、嫌だな。自分で飯作んのがだぞ!


「つか・・・・何で300枚も・・・・」
「俺の仕事はお前に勉強を教えること。卒業させること。いい大学に進学させることだ。当り前だろ」


そうだ、それだけだ。それ以外に教師の俺に価値なんてない。

俺は教師、こいつは生徒。それ以上でも以下でもない。

それでいい。つかそれしかないんだ。

けど、俺は何故かそれが嫌だ。

何で?そんなの俺が知りたい。

なあ、俺ってやっぱおかしいよな?絶対おかしい。病院行った方がいい。

こいつが、誰かと話してるのを見ると苛々するなんて、絶対おかしい。



俺以外ノ奴ヲ見ナイデ、ナンテ、



「つーかお前、やればできるじゃん。つかできるなら授業真面目に受けろよ」


妹が作ったらしいシュークリームを食いながら言う。やっぱ美味い。

カスタードと生クリームを混ぜたクリームは甘すぎず、けど味はしっかりとついている。

ふと聞こえてきた物音に俺は窓に振り返った。

ガタガタと窓が音を立てる。今日は天気が悪い。

もうすぐ12月。このマンションは高級マンションだから床暖房。

床暖房ぬくいけどやっぱ俺こたつがいいな。

有岡が俺を見て、目を見開いて身体を起こした。


「・・・・有岡?」


不思議そうに声をかけても、有岡は答えなかった。

何?何なんだ?どうしたんだよ。

そのとき、ブチンと音が付きそうなほど勢いよく部屋中の電気が消えた。

驚いて思わず声が出た。俺だせえ。

つか、俺、実は暗いとこ苦手なんだよな。軽度の暗所恐怖症。

昔事故でほぼ丸一日真っ暗な倉庫の中に閉じ込められたことがある。

それ以来年取るごとにマシになってきたけど、それでもまだ少しだけ慣れない。

有岡が黙り込むから俺も思わず黙り込んだ。あー、落ち着かない。

やっと目が慣れてきて暗闇の中に有岡の姿が浮かんだ。

もう正直言う。正直安心した。


「あーびっくりした。停電か?」


驚いてない様子を装って声をかけた。

何で答えねえんだよ。何とか言えよ。

ヤバい。めちゃくちゃ不安になってきた。すっげえ落ちつかねえ。情けねえな、俺。

とりあえず外見てみよう、うん。気分が逸れるかもしれねえし。

立ち上がった瞬間、いきなり腕を掴まれた。


「・・・・有岡?」


腕を掴んでるわりには俺を見ない。

何なんだよさっきから!お前も暗所恐怖症なのか?!

嫌だ、何かもう暗いとかどうでもよくなってきた。

掴まれた腕が熱い。どくどくと心臓が鳴り始める。

嫌だ、放して、放して、



俺ニ触ラナイデ



「うわッ」


いきなり腕を引っ張られて床に押し倒された。

肩と背中を結構強めに打った所為で一瞬息が止まった。


「いってぇ・・・・何すんだよてめえ!」
「・・・・なあ、先生」


聞いたことないような低い声に、ぎくりと身体が強張った。

有岡が笑みを浮かべる。

その笑みが、今まで見たことがないほど無感情で、

自分の身体が怯えたのがわかった。


「頬にクリーム、ついてんぜ?」
「・・・・え・・・・?」


俺はぽかんとした。

え、それだけ?それだけで俺押し倒されてんの?


「・・・・とってやるよ」
「うひゃッ?!」


突然生暖かい感覚に実に情けない声が上がった。

いやいやいや、冷静に言ってる場合じゃねえぞ俺!

え、何、こいつ何やってんの?!


「や、やめろ、有岡・・・・ッ」


丹念に這う有岡の舌に、だんだん顔が熱くなってきた。

女だったら気持イイ(のかは知らねえが)んだろうが、正直言うと恥ずかしいだけだ。

俺を見下ろして笑った有岡に、俺は不覚にもときめいた。

ぞくぞくと何かが背筋を這いあがる。


「やめろって・・・・有岡ぁ・・・・ッ」
「甘いな・・・・先生・・・・」


有岡の言葉に、何か得体の知れないものに身体がびくりと跳ねた。

ああ、くそ、泣きそうになってきた。

有岡の肩を押し返す手に力は入らず、情けないことに震えている。

もう嫌だ、嫌だ!


「なあ、先生」
「う、ぁ、やめ・・・・っ」
「なあ先生、好きだ」


・・・・え?

多分相当馬鹿みたいな顔してたんだろうな、俺。

今までにないぐらい呆然とした。

何て?今、

俺が、好き?


「・・・・は・・・・何、言ってんだよ」
「好きだ、先生。好きだ」


意味がわからず笑ったら、有岡は真剣な声でもう一度言った。

その顔に肩がびくりと跳ねて、胸がきゅうと締め付けられる。

ああ、俺、今絶対顔真っ赤だ。


「な、何言って・・・・そんな冗談、言うもんじゃねえぞ?」
「冗談じゃねえよ・・・・好きだ、好きなんだ・・・・」


自分の顔が引きつってるのがわかる。

だって、そんなの、嘘だ。

こいつが、俺を好きになるはずなんて、


「ば、馬鹿言うなよ・・・・俺は男だぞ?」
「知ってる」
「お前も男で、俺は教師でお前は生徒だぞ?」


なあ、冗談だろ?冗談だって言ってくれよ。

今ならまだ、冗談かよって笑えるから、

ああ、そんな、

そんな泣きそうな顔するなよ、頼むから。

俺の唇に、有岡のかさついた唇が重なる。


「それでも、好きだ」


目を見開いて、言うべき言葉を見失った。

有岡が俺の身体をできるだけ強く、できるだけ優しく抱きしめる。


「なあ先生、好きだ。好きなんだ。俺どうしたらいい?」
「有、岡・・・・」
「なあ先生、好きだ。その目に俺を映してよ。俺を先生の世界に入れて」


有岡が俺の胸に額を押し当てる。

ヤバい、俺今、心臓凄いドキドキしてる。

ああ、でも、有岡も、


「好きだ。好きだ、先生。好きだ」
「・・・・ッ」


頬に添えられた前よりも熱い手に、思わず顔を背けた。

馬鹿だ。こいつは正真正銘の大馬鹿野郎だ。

でも、泣きそうになるほど嬉しい俺も、大馬鹿だ。

有岡が俺の上から退こうとした気配に、俺の反応は早かった。

気付いたときには、俺の手は有岡の服を引っ張っていた。

不思議そうに俺を見下ろす有岡に、俺はぎゅっと目を閉じた。


「・・・・嫌じゃ、なかった・・・・」
「え?」


普通ここ聞き返すか?!一発で聞きとれよ馬鹿ッ!

有岡の服を掴む手に力を込める。


「だから!嫌じゃなかったっつってんだよッ!」


俺の怒鳴り声に有岡は目を見開いた。

ああもうクソ!嫌じゃなかったよ全部!

キスも告白も何もかも全部!

泣きたくなるほど嬉しかったよ!


「好きだ先生!好きだ、好きだ」
「あ、有岡・・・・」


突然抱きついてきた有岡に俺は驚いた。

恐る恐る、有岡の背中に手を回して抱き返す。

有岡の腕が、さらに強く俺を抱きしめる。


「痛えよ馬鹿・・・・」


そう言いながら、俺は真っ赤になってるだろう顔を見られるのが嫌で有岡の胸に顔を埋める。

胸がぎゅうと締め付けられる。


「先生・・・・」
「あ・・・・」


ゆっくりと降ってきたキスに、俺は思わず声を上げる。

有岡の舌が、俺の唇を舐める。

ぞくぞくと、何か甘い痺れのようなものが背筋を流れた。

有岡の舌が、俺の歯をつついた。

・・・・えっと、これって、開けろってこと、だよ、な・・・・?

俺はぎゅっと目を閉じると、恐る恐る、ゆっくりと有岡を迎えた。


「ん、んむ・・・・っ」


歯列の裏を撫でる有岡の舌に、俺の身体がびくびくと震える。

無意識に奥へ引っ込めていた俺の舌に、有岡のそれが優しく絡まる。

ちゅ、と吸われる感覚に、俺の身体が竦んだ。

ぎゅうと強く抱きしめられ、キスが一層深くなる。

部屋に響く水音がどうにもこうにもヤラしくて恥ずかしい。

俺の身体の体温がどんどん上がっていく。

有岡の身体も、大概熱いけど、


「ん、んむ!ん、ふぁ、ん、あり、有、岡・・・・っ」


もう俺はキスの合間に有岡の名前を呼ぶので精一杯だ。

情けねえ。こんな、こんなガキにいいようにされるなんて。

軽い水音を立てて有岡が唇を放す。

恥ずかしかったけど、それ以上に、何故か少しだけ寂しかった。

俺の首筋を滑る有岡の熱い唇に、喉がひくりと引きつった。

え、ええ?!ヤるのか?ヤるのか?!

俺男同士のヤり方なんて知らねえぞ?!


「あ、有岡・・・・お、俺・・・・」
「うん・・・・今日はシない。俺も、男同士のヤリ方知らねえし」


よ、よかった・・・・知ってたらショックだったな。

有岡はまだ俺の首筋に唇を滑らせたりしてる。

そのたびに、俺の身体がどんどん熱くなっていく。

チリッとした微かな痛みに、自分が顔を顰めたのがわかった。

服で隠れるところだけど、それでも恥ずかしい。


「あ、有、岡、や、やめ・・・・っ」


気持ち悪くはないけど、く、くすぐったい。

有岡は何を思ったのか俺のベルトのバックルを外すと、下着の中に手を突っ込んできた!


「う、うあッ!や、やめろってぇ!」
「うん」


なななな何すんだてめえ馬鹿ッ!

適当に返事しやってこの馬鹿!やめろっつってんのに!

ちゅ、と音を立てて頬に振ってきたキスに、俺の肩がびくりと跳ねる。

泣きそうになって有岡を見上げると、有岡は無意識なんだろうそっと微笑んだ。

熱くて、大きなごつごつした手が俺を握りこんで上下に扱く。


「や、やめろ、有岡!やめ、やめて・・・・っ」


声が震える。情けねえ。

有岡の手の中で、自分がどんどんと硬くなっていくのがわかった。

さ、最近忙しくて、全然自分でもシてなかったから・・・・っ

そんな相手もいねえし・・・・。

いつの間にか有岡が俺の脚をズボンから引き抜いていた。

有岡は俺を見て、妖しく笑う。


「あれ、もしかして溜まってた?」
「う、うっせえ・・・・ッ」


抵抗らしい抵抗ができないのが情けない。

有岡の肩を押し返してた手は、今はもう必死で縋りついているだけだ。

息が荒れて、身体がひくひくと引きつる。

泣きそうになって、切なくなって、肩を掴む手に力を込める。

ヤバい。気持ちイイ。久しぶり、すぎ、て・・・・っ

有岡はしばらく俺を眺めると、突然俺の足を開かせて、

躊躇いもなく勃ち上がってる俺を咥えやがった!


「ぎゃッ!や、やめろ有岡!やめろ!やめろってぇ・・・・っ」


俺の言葉など無視して有岡は俺のモノを口で扱く。

熱い舌が裏筋を舐め上げて、先端を吸い上げ、奥深くまで咥えこむ。

もう俺のモノが熱いのか有岡の口の中が熱いのかわからない。


「う、うんッ!は、ぁ、ああ・・・・っ!あ、有岡!有岡・・・・っ」


自分で何を言ってるのかわからない。

(後から有岡の名前を必死で呼び続けていたのを思い出して、顔から火が出るかと思うほど恥ずかしかった。)

身体全体が熱くて、汗が滲んでるのがわかる。

頭の中が、真っ白になって・・・・っ

俺の限界がわかったのだろうか、有岡が手で根元を扱いて、亀頭を強く吸い上げた。


「う、あ、あああッ!」


俺は身体をびくりと震わせて果てた。

いや、つーかッ!

慌てて身体を起こすと、有岡がティッシュを口元に押さえている。

つーか、こいつ、口放さなかったのか?!


「お、おま、何やってんだよ!ば、馬鹿じゃねえの!」
「いや、先生だったらいっかなって」


平然と言ってのけた有岡に、俺の顔がまた一気に熱くなった。

なななな何言ってんだこの馬鹿ッ!

ふと俺の腰に何か硬いものがモノが当たる感触に、俺は唇を引き結ぶ。

すっかりテントを張っている有岡の股間。

有岡が顔を引きつらせたのが何となくわかった。

俺は無意識の内に喉を鳴らすと、そろそろと手を伸ばした。


「え?!いや俺はいいって!」
「・・・・何で?」


いや、何でってのもおかしいか・・・・。

何か、俺がシてえみたいじゃね?今の言い方。俺は変態か。

上で悶々と葛藤してる有岡を見上げる。・・・・いや、やっぱ俺変態かも。

有岡のズボンのジッパーを下ろして、大きくそそり立つそれを取り出す。

それを見て、俺は驚いた。

いや、何つーか・・・・でけえな。

・・・・つーかさぁ、身長だけじゃなくてココも育ちすぎじゃね?

俺は恐る恐るそれを手で上下に擦った。


「・・・・っ」


無理矢理押し殺したような声に、俺は思わず勢いよく顔を上げた。

有岡の顔は何かに必死に耐えるように歪んでいて、顔も真っ赤になってて、

・・・・何だろう、これ。すっげえくすぐったい。

俺はまた手の中でどくどくと波打つ有岡を見下ろす。

ごくりと喉を鳴らして、俺は、有岡のそれを咥えこんだ。


「う・・・・は・・・・ッ」


有岡が喉を反らせて小さく声を漏らした。

・・・・今までフェラされたことってやっぱあるけどさ、

まあ、何つーか、女ってすげえな。

俺、結構何でもイケるけど(食いもんがだぞ!)この苦味はちょっと・・・・。


「んッ!ん、ん・・・・ぅん・・・・っ」


呻き声にも似た声が思わず漏れる。

有岡を咥えこんで、必死で舐めたり吸ったりしてみる。

俺、どんなふうにされてたっけ・・・・?

何か、こう、舌で舐めたり、吸ったり、えーっと・・・・。

やっぱ俺、これ下手だよな?有岡も上手かったわけじゃねえけど。

・・・・いや、上手かったら落ち込むな。


「は・・・・先生・・・・」
「う、ぅん!ん、ふ、ふぁ、ん、んむっ」


突然俺の髪に触れた有岡の手に俺は怯えた。

けど大きな手は俺の髪をゆっくりと、優しく撫でる。

お、押さえつけられるのかと思った・・・・。


「先生・・・・俺、イキそう・・・・っ」


有岡の声に、俺は有岡を見上げる。

泣きそうになってるのが可愛いなんて思ってねえからな!

俺は有岡の先端を吸い上げて射精を促す。


「うぐッ!」


口の中に流れ込んできたどろどろしたものに呻く。

ぎゃあああこれ無理無理無理無理ッ!

手で押さえる俺の口に、有岡が慌ててティッシュを添える。

俺は激しく咳き込みながら精液をティッシュの中に吐き出した。


「はあ、はあ・・・・げほッ!はー・・・・はー・・・・」
「大丈夫か?」
「ん・・・・」


優しく俺の背中を撫でる有岡の手に、俺は目を細めた。

何か、くすぐったいっていうか、幸せ?

有岡に身体を預けて、その肩にそっと頭を乗せる。


「先生・・・・」


額にちゅ、と音を立ててキスされ、くすぐったさに身を捩る。

幸せそうに笑った有岡に、俺の胸がきゅうと締め付けられた。

ああ、俺、本当に愛されてんだな。

ふと、何か硬いものが足に触れる。

・・・・いや、いやいやいや、まさか、いや、でも、

ああ、やっぱり。若いなこいつ。

有岡を見上げると、顔を真っ赤にしてた。

ふふ、可愛い。


「なあ、有岡。アリストテレスの死んだ日、教えてやろうか」
「え?」


目を丸くしてぱちくりと瞬いたこいつが、やっぱり可愛かった。

つーかこいつ忘れてやがったな。

また小さく笑みを漏らして、俺は有岡の首に腕を回して後ろに倒れこんだ。


「うおッ!」


有岡は情けない声を上げて引き寄せられた。

俺の上に倒れこむ直前にフローリングに手をついて身体を支える。

おー、やっぱ反射神経いいな。

有岡を引き寄せて、耳元で囁く。


「紀元前322年3月7日だ」


俺を見下ろす有岡に、俺は笑って見せた。

笑った俺に、有岡も楽しそうに笑う。

もし今日が3月7日だったとかだったらロマンチックだとか思ったか?

けど残念。今はもうすぐ12月を迎える11月の下旬で、

3月7日は俺の誕生日でも有岡の誕生日でもない(後者は多分だけど)

有岡の胸倉を掴んで、勢いよくキスをした。

有岡が俺を抱きしめ、深く俺を求めてくる。

ちゅ、と何度も短いキスを交わして、深く深く唇を合わせる。

有岡が唇を放して、俺の唇を舐める。

頬を滑る有岡の熱い唇に、俺は思わず熱い吐息を漏らす。


「好きだ、先生。好きだ。大好きだ」


俺の頬にキスをしながら、有岡が熱に浮かされたように囁く。

やっぱり、可愛い。

俺は小さく笑って、有岡の頬に手を添えて顔を上げさせると、

その唇に、俺のありったけを込めたキスをした。

ああ、幸せだな。





二週間後、二学期の学期末テスト。

世界史の問題用紙を見て、有岡が目を見開く。

勢いよく顔を上げたあいつに、俺は笑って見せた。

物凄い形相をした有岡に、俺はまた目を細めた。



(授業聞いてねえから悪ィんだよ、馬ー鹿。ざまーみろ!)





<出逢い編・Fin>
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やっぱり長かった・・・・;まあ短かってもおかしいよな!(笑)
紅視点の「愛してティーチャー!」とは逆に月代視点の小説でゴザイマス。
月代は基本的に教師にしちゃいけない人です(笑)
つーか紅視点の「愛してティーチャー!」よりこっちの方が作りにくかった・・・・;
しかし自分で作っといて月代はツンデレなのかどうか甚だ疑問だな。
因みに月代の担当教科が世界史なのは龍瀬の好みです!



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